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2024年11月

2024年11月17日 (日)

劇団フライングステージ公演記録

 


<劇団フライングステージ公演記録>

*注記があるもの以外、作・演出:関根信一


受賞歴

 2006年 2006年度サンモールスタジオ最優秀作品賞 作品「ミッシング・ハーフ」

 2006年 2006年度サンモールスタジオ最優秀女優賞 関根信一 作品「ミッシング・ハーフ」

 2000年 豊島区主催第12回池袋演劇祭としまテレビ賞 作品「オープニング・ナイト」

 1997年 豊島区主催第9回池袋演劇祭大賞 作品「陽気な幽霊 GAY SPIRIT」

 1996年 豊島区主催第8回池袋演劇祭審査会特別賞 作品「美女と野獣 Kiss Canges Everything?」


1992年      

11月3日 第1回公演「NOT ALONE」千本桜ホール


1993年         

 2月 第2回公演「夜のとなり」吉祥寺バウスシアター
   *第2回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭のプログラム

11月 第3回公演「遠い気持」こまばアゴラ劇場


1994年   

 3月 第4回公演「NOT ALONE」OFF・OFFシアター

 9月 ミニシアターvol.1「TOGETHER/ALONE」OFF・OFFシアター

11月 第5回公演「ぼくのおじさん」OFF・OFFシアター
   *神奈川県戯曲賞佳作入選作を改作


1995年   

 2月 ミニシアターvol.2「僕たちの距離」ティアラ江東小ホール(作:栗巣純一)

 6月 第6回公演「LINE 2人暮らし+αのための傾向と対策」駅前劇場

 9月 第7回公演「夜のとなり」「TOGETHER/ALONE」アートスペース サンライズホール


1996年   

 2月 HSA札幌ミーティング主催「夜のとなり」ルネサンス・マリア・テアトロ(札幌)
   *初の札幌公演

 4月 第8回公演「陽気な幽霊 GAY SPIRIT」OFF・OFFシアター

 9月 第9回公演「美女と野獣 Kiss Changes Everything?」アートスペース サンライズホール
   *豊島区主催第8回池袋演劇祭審査会特別賞受賞

11月 第10回公演「遠い気持ち(改訂版)」OFF・OFFシアター


1997年   

 9月 第11回公演「陽気な幽霊 GAY SPIRIT」ジェルスホール
   *豊島区主催第9回池袋演劇祭大賞受賞

12月 gaku-GAY-kai 1997「新・白雪姫」スペース・エッジ (作:坂本耕一)


1998年   

 2月 HSA札幌ミーティング主催「陽気な幽霊 GAY SPIRIT」ルネサンスマリアテアトロ(札幌)
   (演出:藤井冬生)

 5月 第12回公演「秘密と嘘」OFF・OFFシアター

 9月 第13回公演「陽気な幽霊 GAY SPIRIT」東京芸術劇場 小ホール1
   *池袋演劇祭受賞記念再演

12月 gaku-GAY-kai 1998「新・シンデレラ」スペース・エッジ (作:坂本耕一)


1999年   

 4月 第14回公演「オープニング・ナイト」OFF・OFFシアター

 9月 第15回公演「ひまわり」OFF・OFFシアター

11月 第16回公演「美女と野獣 Kiss Changes Everything?」タイニイアリス

12月 gaku-GAY-kai 1999「新・浦島太郎」スペース・エッジ(作:坂本耕一)


2000年   

 7月 第17回公演「Nude」OFF・OFFシアター

 9月 第18回公演「オープニング・ナイト」東京芸術劇場 小ホール2
   *豊島区主催第12回池袋演劇祭としまテレビ賞受賞

12月 gaku-GAY-kai 2000「贋作・黒蜥蜴」新宿文化センター 小ホール


2001年   

 4月 第19回公演「Love Song」駅前劇場

 8月 第20回公演「ひまわり」駅前劇場

12月 gaku-GAY-kai 2001「贋作・犬神家の一族」新宿文化センター 小ホール


2002年   

 3月 フライングステージプロデュース「Trick」駅前劇場

 6月 第21回公演「陽気な幽霊 GAY SPIRIT」東京ウィメンズプラザホール

 8月 ぐりぐり2002「贋作・犬神家の一族」中野ZERO小ホール
   *東京レズビアン&ゲイパレード2002企画

11月 第22回公演「HAPPY END」アターVアカサカ

12月 gaku-GAY-kai 2002「贋作 マイ・フェア・レディ」新宿文化センター 小ホール


2003年   

 3月 第23回公演「Skip」駅前劇場

 4月 絶対王様プロヂゥース公演「絶対鳥フライ」駅前劇場
   *「絶対王様」「bird's-eye view」との合同公演
    「贋作 マイ・フェア・レディ」を改訂上演

 7月 第24回公演「Four Seasons 四季」駅前劇場 

11月 第25回公演「PRESENT」ザ・ポケット

12月 gaku-GAY-kai 2003「贋作・大奥」新宿文化センター 小ホール


2004年   

 3月 第26回公演「Four Seasons 四季2」ザ・ポケット

11月 第27回公演「約束」シアターモリエール

12月 gaku-GAY-kai 2004「贋作・毛皮のマリー」新宿文化センター 小ホール


2005年   

 7月 第28回公演「Four Seasons 四季」ザ・ポケット

12月 gaku-GAY-kai 2005「贋作・Wの悲劇」新宿文化センター 小ホール


2006年   

 8月 第30回公演「ムーンリバー」ザ・ポケット
   戯曲デジタルアーカイブ

 9月 「二人でお茶を TEA FOR TWO」BLOCH(札幌) 
   戯曲デジタルアーカイブ

12月 gaku-GAY-kai 2006「贋作・犬神家の一族」新宿文化センター 小ホール


2007年   

 6月 第29回公演「ミッシング・ハーフ」サンモールスタジオ
   *サンモールスタジオ最優秀作品賞、サンモールスタジオ最優秀女優賞(関根信一)

 8月 第31回公演サロン」(原作:桜沢エリカ)シアターグリーンBIG TREE THEATER

12月 サロン・ド・gaku-GAY-kai「贋作・シンデレラ」クラブArcH (作:坂本耕一)


2008年   

 1月 Tea for two 〜 二人でお茶をサンモールスタジオ
   戯曲デジタルアーカイブ

 3月 第32回公演新・こころ駅前劇場
   戯曲デジタルアーカイブ

11月 gaku-GAY-kai 2008「贋作・大奥2」クラブArcH


2009年   

 1月 第33回公演「ジェラシー 〜夢の虜〜」「ミッシング・ハーフ」駅前劇場

 7月 第34回公演「プライベート・アイズ」OFF・OFFシアター

12月 gaku-GAY-kai 2009「贋作・マイ フェア レディ」シアターミラクル


2010年   

 8月 第35回公演「トップ・ボーイズ」OFF・OFFシアター

12月 gaku-GAY-kai 2010「贋作・Wの悲劇」シアターミラクル


2011年   

 8月 第36回公演「ハッピー・ジャーニー」OFF・OFFシアター

 9月 第36回公演「ハッピー・ジャーニー」シアターZOO(札幌)

12月 gaku-GAY-kai 2011「贋作・GO -ヒメたちの戦国」SPACE雑遊


2012年   

 7月 第37回公演「ワンダフル・ワールド」駅前劇場

12月 gaku-GAY-kai 2012「贋作・銀河鉄道の夜」SPACE雑遊


2013年   

 8月 第38回公演「OUR TOWN わが町 新宿2丁目」OFF・OFFシアター

 9月 第38回公演「OUR TOWN わが町 新宿2丁目」シアターZOO(札幌)

12月 gaku-GAY-kai 2013「贋作・カグヤヒメの物語」SPACE雑遊


2014年   

 7月 第39回公演「PRESENT」OFF・OFFシアター

12月 gaku-GAY-kai 2014「贋作・銀河鉄道の夜 2014」SPACE雑遊


2015年   

10月 第40回公演「Friend,Friends 友達、友達」
   ドラマリーディング「8」(作:ダスティン・ランス・ブラック 翻訳:プロジェクト8)
   OFF・OFFシアター

12月 gaku-GAY-kai 2015「贋作・ウェストサイド物語または贋作・ローマの休日」SPACE雑遊


2016年   

 3月 第41回公演「新・こころ」SPACE梟門
   戯曲デジタルアーカイブ

11月 第42回公演「Family,Familiar 家族、かぞく」「Friend,Friends 友達、友達」
    OFF・OFFシアター

12月 gaku-GAY-kai 2016「贋作・サウンドオブミュージック〜家政婦は見た!」SPACE雑遊


2017年   

11月 第43回公演「LIFE, LIVE ライフ、ライブ」
   ドラマリーディング「陽気な幽霊 GAY SPIRIT」
   ドラマリーディング「二人でお茶を TEA FOR TWO」OFF・OFFシアター
   戯曲デジタルアーカイブ

12月 gaku-GAY-kai 2017「贋作・夏の夜の夢」SPACE雑遊


2018年   

 8月 第44回公演「お茶と同情 Tea and Sympathy」OFF・OFFシアター

12月 gaku-GAY-kai 2018「贋作・冬物語」シアター・ミラクル


2019年   

10月 第45回公演「アイタクテとナリタクテ 子どもと大人のフライングステージ」
    OFF・OFFシアター

12月 gaku-GAY-kai 2019「贋作・から騒ぎ」シアター・ミラクル


2020年   

11月 第46回公演「Rights, Light ライツライト」OFF・OFFシアター

12月 gaku-GAY-kai2020「贋作・十二夜」シアター・ミラクル


2021年   

 6月 第47回公演「アイタクテとナリタクテ/お茶と同情 子どもと大人のフライングステージ」
    座・高円寺1
   *座・高円寺 夏の劇場05 日本劇作家協会プログラム

12月 gaku-GAY-kai 2021「贋作・終わりよければすべてよし」シアター・ミラクル


2022年   

11月 第48回公演「Four Seasons 四季 2022」OFF・OFFシアター

12月 gaku-GAY-kai2022「贋作・テンペスト」シアター・ミラクル


2023年   

12月 gaku-GAY-kai 2023「贋作・お気に召すまま」新宿スターフィールド


2024年   

 3月 第49回公演「こころ、心、ココロ 日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語」座・高円寺1
   *座・高円寺 春の劇場29 日本劇作家協会プログラム

10月 第50回公演「贋作・十二夜/贋作・冬物語」座・高円寺1
   *座・高円寺 秋の劇場18 日本劇作家協会プログラム

12月 gaku-GAY-kai 2024「贋作・桜の園」新宿スターフィールド

 

 

 

2024年11月 7日 (木)

gaku-GAY-kai 2024 贋作・桜の園

 

gaku-GAY-kai 2024 贋作・桜の園

 

第一部はロシアの劇作家チェーホフの名作「桜の園」を贋作化!

没落貴族と新興階級が繰り広げる悲喜劇を

ゲイタウン新宿2丁目を舞台に翻案!

第二部はここでしか見れないパフォーマンスが盛りだくさん!

 

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日程:2024年12月29日(日)~30日(月)

12月29日(日) 14:00※第一部のみ/18:30

12月30日(月) 14:00/18:30

*29日(日)14:00の回は第一部「贋作・桜の園」のみ上演します。

*開場は開演の30分前となります。

*第一部第二部通しての上演時間は約3時間から3時間20分、
 第一部「贋作・桜の園」のみの上演時間は1時間40分です。
 上演時間の最新情報は、フライングステージ公式Xでお知らせします。

*第一部と第二部の間に15分間の休憩をいただきます。

会場:新宿スターフィールド 東京都新宿区新宿2-13-6 光亜ビルB1F

・丸の内線新宿御苑前駅より徒歩5分 https://x.gd/6RloR

・丸の内線新宿三丁目駅(伊勢丹交差点)より徒歩8分 https://x.gd/NFkuG

・都営新宿線新宿三丁目駅C8出口より徒歩5分 https://x.gd/uFj8y

チケット:全指定席 予約・当日とも4,000円

*29日(木)14:00(第一部のみ上演)は予約・当日 2,000円

*キャッシュレス決済対応はしていません。

*当日券は開場と同時に発売します。

*予約受付開始 11月30日(土)10:00〜

チケット予約:予約ページからご予約ください。

電話、FAX、メールでのご予約はできません。

https://ticket.corich.jp/apply/350895/

携帯からの予約はこちらをクリック!


【空席情報】2024年12月22日現在

12月29日 14:00 ★★★★★☆☆☆☆☆(第1部のみ上演)
12月29日 18:30 ★★★★★★★★★★ 満席御礼
12月30日 14:00 ★★★★★★★★☆☆
12月30日 18:30 ★★★★★★★★☆☆

第一部 贋作・桜の園

原作:アントン・チェーホフ 

作・演出:関根信一

出演:石坂 純、エスムラルダ、オバマ、岸本啓孝、木村佐都美、さいとうまこと、坂本穏光、関根信一、中嶌 聡、水月アキラ、モイラ、水島和伊、和田好美

*長谷川愁斗は体調不良のため出演できなくなりました。ご予約のキャンセルを希望される方はyoyaku@flyingstage.comまでご連絡下さい。公演は予定通り行います。

第二部

「アイハラミホ。の驚愕!ダイナマイトパワフル歌謡パフォーマンスしょー」 
 アイハラミホ。*29日のみ

「佐藤 達のかみしばい 僕の話をきいてください」 佐藤 達

「ドラァグクィーン ストーリータイム」 関根信一

「水月モニカのクイアリーディング」 水月モニカ

「ふんわり小夜子ショウ リヴァイタル:レシタル」 モイラ

「ジオラママンボガールズの明鏡止水」 ジオラママンボガールズ

「中森夏奈子のスパンコール・チャイナイト vol.16」 中森夏奈子 ピアノ:ちゃっく澤幡

「今年もアタシ、第二部で何かやろうかねえ」 エスムラルダ

 

照明:伊藤 馨

音響:樋口亜弓 

衣裳:石関 準

舞台監督:岸本啓孝、水月アキラ

制作:渡辺智也、三枝 黎

フライヤーイラスト:ぢるぢる フライヤーデザイン:三枝 黎、石原 燃

主催、企画製作:劇団フライングステージ、関根信一

協力:CoRich舞台芸術!

助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【東京ライブ・ステージ応援助成】

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*最新情報、タイムテーブルは劇団フライングステージ公式Xアカウント@flyingstage をご確認ください。

*お問い合せはフライングステージまでどうぞ。stage@flyingstage.com

 

●会場の新宿スターフィールドは地下1階。エレベーターはありません。
 階段の昇降が必要ですのでご注意ください。
●チケットは当日受付精算で承ります。
●37.5度以上の発熱がある方、体調がすぐれない方は、ご来場をご遠慮ください。
●泥酔および酒気帯びでの入場はお断りいたします。
●客席内ではふたのついた飲み物以外の飲食はご遠慮ください。
●客席内での不織布マスクの着用を推奨いたします。
 マスクをお持ちでない方には、当日、無料でお渡しいたします。
 この季節、安心して観劇いただくためにご協力をお願いいたします。

 

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上演台本の一部を公開します。
神西清訳「桜の園」を参考にしています。

 

 

贋作・桜の園

 

原作 アントン・チェーホフ

台本 関根信一

 

【登場人物と配役】

ラネーフスカヤ(女地主)     エスムラルダ

アーニャ(その娘 十七歳)     木村佐都美 

ワーリャ(その養女 二十四歳)   モイラ

ガーエフ(ラネーフスカヤの兄)  関根信一    

ロパーヒン(商人)        石坂 純

ヤーコフ(ロパーヒンの部下)   水月アキラ

トロフィーモフ(大学生)     さいとうまこと 

ピーシチク(地主)        和田好美    

シャルロッタ(家庭教師)     岸本啓孝

エピホードフ(執事)       水島和伊

ドゥニャーシャ(小間使)     坂本穏光

フィールス(老僕 八十七歳)   中嶌 聡

ヤーシャ(若い従僕)       オバマ

浮浪人              水月アキラ

 

* * * * *

第一幕

ラネーフスカヤの邸宅。この屋敷は、彼女の自宅でもあり、社交場としてのサロンでもある。サロンの名は「子供部屋」。
いくつか椅子が置かれている。
4月の夜明け近く。屋敷の広大な庭は満開の桜が夜風に吹かれている。
新宿追分の停車場に着いた汽車の汽笛が遠く聞こえてくる。
ロパーヒンとドゥニャーシャが登場。

ロパーヒン   汽車が着いたようだ。ドゥニャーシャ、何時だろう

ドゥニャーシャ まもなく五時。もう夜が明けますわ、ロパーヒンさん。

ロパーヒン   ずいぶん遅れたんだな、新宿追分の停車場まで出迎えるつもりでここへ来たのに、寝過ごしてしまった。なんで起こしてくれないんだ。

ドゥニャーシャ ぐっすりおやすみでしたから。おつかれなんですね。

ロパーヒン   ああ、仕事仕事仕事だ。

ドゥニャーシャ お忙しそうで何よりですわ。

ロパーヒン   ラネーフスカヤさんは、お元気かな。ここ新宿二丁目を出て、神戸で五年も暮らしてたんだから、さぞご苦労されたことだろう。ほんとにいい方だよ。きさくでさばさばして。忘れもしないが、おれがまだ十代のガキだったころ、この町に初めてやって来た時、右も左もわからなかった。ドギマギしながらコートの襟を立てて歩く男たちをただ眺めて立ち尽くしていたら、声をかけてくれたんだよ。「この町は初めてなのね、ぼうや、良かったらうちにいらっしゃい」そう言って、ここに連れてきてくれた。男たちが楽しそうに話してた。それがおれのこの町新宿二丁目との出会いだったのさ。ぼうやか。俺も若かったな。それが今はどうだ。すっかり年をとってしまったよ。

ドゥニャーシャ いいえ、まだまだお若いですわ。この町ではモテモテだと聞いてますわ。

ロパーヒン   そんなことはない。だからこの年まで一人でいるんじゃないか。どうしたんだ、ドゥニャーシャ?

ドゥニャーシャ 私、男の方と二人きりになるとドキドキしてしまうんです。手がぶるぶるして、気が遠くなって失神しそうですわ。ああ、めまいがする。

ドゥニャーシャ、倒れそうになるが、ロパーヒンが助けてくれないので、自分で立ち直る。

ロパーヒン   しっかりするんだな。あんたはここの使用人、お嬢様じゃないんだから、身の程をわきまえるんだ。そんな見せかけやそぶりで男があんたに惚れると思ったら大間違いだ。
ドゥニャーシャ そんなつもりじゃありませんわ。

(中略)

アーニャ    ワーリャ、あの人あんたに申込みをして?

ワーリャ、首を振る。

アーニャ    だってあの人、あなたを愛してるのよ。女装しててもかまわないって、そう言ってるんでしょう?

ワーリャ    それはそうらしいのだけれど。

アーニャ    もう、何を二人とも待ってるの?

ワーリャ    わたし思うのよ、これは結局どうにもならない話だって。あの人は仕事が多いから、わたしどころじゃない。いっそどこかへ行ってしまってくれるといいんだけど。あの人の顔、見るのがつらいわ。みんな、わたしたちの結婚の噂をしているけれど、ほんとうは何もありゃしないの。夢みたいなものなのよ。

アーニャ    ワーリャ……

ワーリャ    あの人と一緒になってどうなるの? 私は人前に出られない、日陰の身の上。あの人はそのうち奥様を持つようになって、子供も何人も。私はどこにいればいいの?

アーニャ    ロパーヒンさんは、そんな人じゃないと思うわ。

ワーリャ    私にもそれが信じられたら、そう信じさせてくれたらいいのだけれど。ともかく、よかったわ、無事に帰ってきてくれて。私、本当にうれしいの。

(中略)

ヤーシャが登場。

ヤーシャ    ここを通ってもいいかしら?

ドゥニャーシャ まあ、見ちがえるようだわ、ヤーシャ。あんた、すっかり立派になって。知ってるわ、そういうなりのこと、ドラァグクィーンっていうんでしょ? いいわねえ。おっかないくらい。

ヤーシャ    誰だったかしら?

ドゥニャーシャ あんたがここを発った時は、あたしまだこんなだったわ……(床からの高さを手で示す)こんな。ドゥニャーシャよ、藤原酒店の。

ヤーシャ    あら、そうだったの? 女装もずいぶん板についてきたわね。シャー!(などと言って脅かす)

ドゥニャーシャ、キャッと叫んで盆を落す。ヤーシャ退場。
ワーリャ、登場。

ワーリャ    また何かしたの?

ドゥニャーシャ (盆を拾いながら)なんでもありません。

(中略)

ラネーフスカヤ夫人、ガーエフ、ピーシチク、ロパーヒン登場。

ガーエフ    思い出すわね。この部屋はもともと私たち兄弟の子供部屋だったのよ。よく一緒に寝たものだったわね。それが今じゃどう? わたしももう五十一。

ラネーフスカヤ 五十六よ。お姉様。

ガーエフ    あら、そうだったかしら? 時が経つのは早いものね。

ロパーヒン   まったくそのとおりです。

ガーエフ    何か言って?

ロパーヒン   いや、時が経つのは早い、まったくそのとおりだと。

ガーエフ    あら、やだわ、この部屋は安い香水の匂いがする。

アーニャ    わたし、もう寝るわ。おやすみなさい、ママ。

ラネーフスカヤ おやすみなさい。

アーニャ    おやすみなさい、おばさま。

ガーエフ    おねえさま。

アーニャ    おねえさま。

ガーエフ    ほんとうにおつかれだったわね。ありがとう。まあ、この子ったら、あなたの若い頃にそっくりじゃないの。

アーニャ    当たり前だわ。私はママの娘なんだから。

ガーエフ    おやすみなさい。

アーニャ、退場。

ラネーフスカヤ あの子すっかりくたくたなのね。

ピーシチク   道中がさぞ長かったでしょうからな。

ワーリャ    どうなすって、皆さん? やがて六時ですよ、そろそろ御神輿をお揚げになったらいかがです?

ラネーフスカヤ (笑う)お前、相変らずなのね、ワーリャ。このコーヒーを飲んだら、それでお開きにしましょうね。

ワーリャ    荷物がみんな来ているかどうか見て来ます。

ワーリャ、退場。

ラネーフスカヤ ほんとに、ここに坐っているのはわたしかしら? これが夢だったらどうしよう! わたし心の底から生れ故郷が好きですの、まるで母親に甘えるような気持ちで。それはそうと、コーヒーを頂かなくてはね。(フィールスに)ありがとう、爺や。お前が達者でいてくれて、ほんとに嬉しいわ。

フィールス   おとといでございます。

ガーエフ    耳が遠いのよ。

ロパーヒン   奥様、わたしはこれからすぐ、今朝の七時すぎに、横浜へ発たなければなりません。じつに残念です! ぜひお話ししたいこともあったのですが……。しかし、相変らずお美しい。

ラネーフスカヤ (微笑んで)まあ……

ピーシチク   むしろ器量があがられたくらいだ。目がくらんで、まともに見ていられないほどです。

ロパーヒン   あなたの兄上(ガーエフ、咳払い)姉上ガーエフさんは、わたしのことを下品だ、強欲だと言われますが、わたしは一向平気です。なんとでも仰しゃるがいい。ただわたしの望むところは、あなただけはわたしを信用して頂きたいということです。わたしはあなたを肉親のようにお慕いしています。いや肉親以上にです。

ラネーフスカヤ わたし、じっとしてはいられない、とても駄目……(ぱっと立ちあがって、ひどく興奮のていで歩きまわる)嬉しくって嬉しくって、気がちがいそう。……わたしを笑ってちょうだい、ばかなんですもの。……なつかしい、わたしのサロン。子供部屋。

ピーシチク   うちのかみさんがよろしくと申しておりました……

ラネーフスカヤ あら、そう。ピーシチクさん、よろしく言っておいてちょうだい。

ヤーコフが登場。

ヤーコフ    失礼します。ロパーヒンさん、こんなところにいらしたんですか、もう出かける時間です。

ロパーヒン   ああヤーコフ、わかってる。もう帰るところだ。

ヤーコフ    では……

ロパーヒン   ちょっと待ってくれ。奥様、わたしはあなたに、何かとても愉快な、楽しい話がしたいのですが、おしゃべりをしているひまがありません……でまあ、ごくかいつまんで申しあげます。すでにご承知のとおり、お宅の桜の園は借財のカタで売りに出ておりまして、八月の二十二日が競売の日になっています。しかし、ご心配はいりません。どうぞ、ご安心ねがいたい。打つ手はあります。わたしの考えをよく聴いていただきたいのですが。あなたの領地、この桜の園は、新宿の駅からも近く、ついそばを地下鉄が通ったばかりです。それでもし、この桜の園とこの大きなお屋敷のサロンを、小さな地所に分割して、それを貸すことにしたら、あなたはいくら内輪に見積っても、年に二万五千の収入をおあげになれるわけです。

ガーエフ    分割して貸すですって?

ロパーヒン   ええ、そうです。

ガーエフ    失礼だけれど、つまらないお話ね。

ラネーフスカヤ あなたのお話、どうもよくわからないわ、ロパーヒンさん。

ロパーヒン   家を建ててもいいし、店をやってもいい。とにかく売り払うよりはよっぽどいいでしょう。もし今すぐに広告を出せば、このわたしが保証しますが、秋になるまでには一っかけらの空地も残さず、みんな借り手がつきますよ。早い話が万歳です。ただ、もちろん、そこらをちょっと片づけたりはしなければなりません……例えば、古い建物はみんな取り払ってしまう。この屋敷なんかも大きなだけで使ってない部屋ばかりなんですから。それに、古い桜の園なんかもみんな伐り払ってしまう。

ラネーフスカヤ 伐り払うですって? まああなた、なんにもご存じないのねえ。このあたりで、何かしらちっとは増しな、それどころかすばらしいものがあるとすれば、それはうちの桜の園だけですよ。

ロパーヒン   そのすばらしいというのも、結局はだだっぴろいだけの話じゃないですか。いくら見事な桜が咲いたって腹の足しにはなりません。

ガーエフ    いけすかない提案ね。

ヤーコフ    ロパーヒンさん?

ロパーヒン   わかってる。これといった思案も浮ばず、なんの結論も出ないとなると、八月の二十二日には、桜の園はむろんのこと、領地すっかり、競売に出てしまうのですよ。思いっきりが肝腎です! ほかに打つ手はありません、ほんとです。ないとなったら、ないのですから。

フィールス    昔は、さよう四、五十年まえには、桜んぼを乾して、砂糖づけにしたり、ジャムにしたりしたものだった。それから、よく……

ガーエフ    おだまり、フィールス。

フィールス   それからよく、乾した桜んぼを、荷馬車に何台も積んで、市場へ出したもんでしたよ。大したお金になったもんです。あの頃は、こさえ方を知っていたんですな。

ラネーフスカヤ そのこさえ方は今どうなったの?

フィールス   忘れちまいましたので。誰も覚えちゃおりません。

ピーシチク   (ラネーフスカヤに)神戸はいかがでした? 神戸牛は召し上がりましたか?

ラネーフスカヤ ええ、毎日いただいたわ。

ピーシチク   こりゃ、おどろいた!

ロパーヒン   この近くには元々内藤新宿の遊郭がありました。奥様は代々その流れを汲む、大地主の家柄。広い土地やお屋敷を大事にされたいのはわかります。奥様が何もなかったこの地を男たち、男を愛する男たちが集う場としてこのサロン「子供部屋」をお作りになったことも。豪華な秘密のサロンに集う男たち。華やかでにぎやかな社交界。ですが、時代は変わりつつあるのです。誰もがもっと気軽に立ち寄れる、そんな場がもとめられているのです。これから二十年もしたら、この界隈にやってくる男たちはどえらい数になるでしょう。そのあかつきには、お宅の桜の園も、ゆたかな、地上の天国になるでしょう。

ガーエフ    くだらないわ!

(中略)

 

第二幕

野外。まもなく日の沈む時刻。
近くの寺の鐘の音。ねぐらへ帰る鳥たちの声。

シャルロッタ、ヤーシャ、ドゥニャーシャが、ベンチにかけている。
シャルロッタはウィッグの手入れをしている。
エピホードフはそばに立って、三味線を弾いている。

シャルロッタ  わたし、自分がいくつなのか知らないの。それでいつも若いような気がしているわ。

ヤーシャ    それは病気よ、現実逃避っていう。

シャルロッタ  まだ子どもだったころ、父さんと母さんは町から町を渡り歩いて、見世物を出していた。わたしは宙返りをしたり、女の格好をして踊ったり、いろんな芸をしたものよ。父さんも母さんも死んでしまうと、私の芸を見込んだ、ある踊りのお師匠さんが、わたしを引取って芸を仕込んでくれた。勉強もさせてくれた。やがて大きくなると、踊りの流派を継ぐように言われた。結婚して子供をつくれ。お前を引き取ったのはそのためなんだから、見合いをしろって。娘さんたちの写真をいっぱい並べてね。私は逃げ出した。それきり帰ってない。だから、私はどこの何者なのかさっぱり知らないの。もう知りようもない。知りたくもない。

カラスの鳴き声。

シャルロッタ  いろいろ話もしたいけれど、話し相手もなし……。わたしには誰もいないんだもの。

エピホードフ、三味線を弾いている。曲は「ふるさと」

(中略)

ロパーヒン   桜の園は、大地主のデリガーノフが買おうとしています。競売には、デリガーノフ自身がやってくるという噂です。

ラネーフスカヤ どこでお聞きになって?

ロパーヒン   町で、もっぱらの評判です。

ガーエフ    成城の伯母さんから、送ってよこす約束なんだけど……

ロパーヒン   幾ら送ってくれるんでしょう? 十万? それとも二十万?

ラネーフスカヤ そうね……一万か、せいぜい一万五千。

ロパーヒン   ありえない。あなたがたのような世間知らずにはお目に掛かったことがありません。ちゃんと日本語で、お宅の領地が売りに出ていると申しあげているのに、どうしてわかっていただけないんでしょう。

ラネーフスカヤ 一体どうしろと仰しゃるの? 教えてちょうだい、どうすればいいの?

ロパーヒン   だから毎日、お話ししてるじゃありませんか。桜の園は貸しに出す、それも今すぐ、一刻も早く。競売はすぐそこまで迫ってるって。いいですか! 桜の園を分割して貸し出すんです。月々の家賃収入であなたがたは安泰なんですから。

ラネーフスカヤ 分割して貸し出す。家賃収入。俗悪だわねえ、失礼だけど。

ガーエフ    わたしも同感。

ロパーヒン   ああ、たまらない。わたしは泣きだすか、怒鳴りだすか、それとも卒倒するかだ。あなたがたのおかげで、くたくたです!(ガーエフに)あなたは婆あだ、まるで!

ガーエフ    そのとおり、婆あですけど何か?!

ロパーヒン   ああ、もう!!

ロパーヒン、行こうとする。

ラネーフスカヤ ああ、行かないでちょうだい。ここにいて、ねえ。お願いだから。何か考えつくかもしれないもの!

ロパーヒン   今さら、考えることなんかないです!

ラネーフスカヤ 行かないで、お願い。あなたがいると、とにかく、とにかく気がまぎれるわ。

ロパーヒン   (ため息をついて)わかりました。

ラネーフスカヤ わたしたち、あんまり罪を作りすぎたのよ……

ロパーヒン   なんのことです、罪だなんて……。あなたがたが女の格好をしていることですか、僕が男として男を愛することがですか? それは違う。

ラネーフスカヤ (聴いていない)ああ、わたし罪ぶかい女だわ。世間体のために、愛してもいない女性と結婚したんです。ほんとうに罪深いことをしたわ。彼女は私を愛してくれた。私も彼女を愛していた。彼女は私のすべてを受け入れてくれた。アーニャとグリーシャもできた。でも、やっぱりつらかったのね。彼女は、お酒がもとで死にました。お酒に目のない人でしたけど、だんだん溺れるようになってしまって。これが最初の天罰。でも私はそれに気が付きもしないで、今度は私を幸せにするという男と一緒になろうとした。そうするのがいいと思ったの。ところが今度は坊やが溺れ死んだ。それでわたしは、この町を出たの。もう二度と帰ってはこない、あの川も見まい、と思って。わたしが無我夢中で逃げだしたのに、あの人は追っかけてきたの。わたしが軽井沢に別荘を買ったのも、あの人があそこに病みついたからで、それから三年というもの、わたしはホッとするひまがなかった。病人にいびり抜かれて、心がカサカサになってしまいました。幸せになれると思っていたのに。とうとう去年、借金の始末で別荘が人手にわたってしまうと、わたしは神戸へ行きました。そこで、わたしから搾れるだけ搾りあげた挙句、あの人はわたしを捨てて、ほかの女と一緒になった。……わたし毒を飲もうとしました。われながら浅ましい気がして。……ところが、急に帰りたくなったの。生れ故郷へ、この町に、ひとり娘のところへね。……(涙をふく)神さま、ああ神さま、どうぞこの罪ぶかい女をお赦しくださいまし! この上の罰は、堪忍してくださいまし!(ポケットから電報を出して)今日、神戸から来たの。……赦してくれ、帰って来てくれ、ですって。……(電報を引き裂くが捨てずにしまう)どこかで音楽がきこえるようね。(耳を澄ます)

ガーエフ    あれは、有名な楽団よ。覚えてるでしょう。うちにも何度か来た。

ラネーフスカヤ あれ、まだあるの? なんとかあれを呼んで、夜会を開けないかしら。

ガーエフ    いいわねえ。

ロパーヒン   わたしには聞えませんけど。楽隊なんか呼んでる場合じゃないでしょう。

ラネーフスカヤ あなたも少しは趣味を持ったほうがよくってよ。

ロパーヒン   趣味ですか、それは余裕のある人間に許された特権です。私はそれどころじゃない。ただもう働くしかないんですから。わかってますよ。こんな暮らしが馬鹿げてるってことは。(間)うちの親父は田舎者のわからず屋で、わたしを学校にもやってくれず、酔っぱらっては殴りつけるだけでした。ゲイだってことがバレてからはなおさら。実家にはもう何年も帰ってません。

ラネーフスカヤ 一人でいるのはよくないわ。あなたもそう思うでしょ?

ロパーヒン   それはまあ……

ラネーフスカヤ うちのワーリャはどう? いい子でしょう?

ロパーヒン   たしかにそうですね。

ラネーフスカヤ ワーリャは、アーニャが生まれる前に、養子にもらった子なの。あの人と相談してね。アーニャとグリーシャが生まれてからも、変わらず私たちを愛してくれて、この屋敷の一切を仕切ってくれている。あのとおりの働きものだし、第一あなたを愛していますわ。それにあなただって。

ロパーヒン   そりゃまあ、わたしも嫌いじゃありません。

(中略)

ワーリャ    ねえペーチャ、そんな話より、どう、きのうの話の続きをしたら。

トロフィーモフ なんの話でしたっけ?

ガーエフ    人間の誇り、プライドのことよ。

トロフィーモフ きのうは、長いこと議論したけれど、結局、結論は出ませんでしたね。あなたの言われる意味で行くと、人間の誇りなるものには、何か神秘的なところがありますね。しかし率直に判断してみると、そもそもその誇りというもの自体怪しいと言わざるを得ない。げんに私たち人間がすこぶるみじめな境涯にある以上、誇りとかプライドとかいっても、なんの意味があるでしょうか。

ラネーフスカヤ そうかしら? みじめな境涯だからこそプライドが必要なのではなくて? 私たちはみな、小さな誇りを頼りに生きている。幼い子供がささやかなおもちゃを後生大事にいつくしむように。

ガーエフ    そのとおり。でも、みんなどっちみち死ぬのよ。死んでしまえばそれでおしまい。プライドなんてものも消えてなくなってしまう。

トロフィーモフ その意見には賛成しかねます。第一、死ぬとは一体なんでしょう? もしかすると、人間には百の感覚があって、死ぬとそのうちわれわれの知っている五つだけが消滅して、のこる九十五は生き残るのかも知れない

ラネーフスカヤ なんてお利口さんなんでしょう、ペーチャ! 

ロパーヒン   (皮肉に)おっそろしくね!

トロフィーモフ 人類は進歩して行きます。今は理解できないことも、やがてわかる日がくるんです。

ラネーフスカヤ それはほんとう? 私たちがなぜこんなに苦しまなければいけないか、なぜ生きているのかわかる日がくるというの?

トロフィーモフ さあ、どうでしょう? 

ガーエフ    頼りないわね。そこは自信をもってそうだって断言するところでしょう。

トロフィーモフ すみません。

ラネーフスカヤ ああ、それがわかったらどんなにいいでしょう。それがわかったら。

不意にはるか遠くで、まるで天からひびいたような物音がする。それは弦の切れた音で、しだいに悲しげに消えてゆく。

ラネーフスカヤ なんだろう、あれは?

ロパーヒン   さあ、太宗寺の鐘では?

ガーエフ    鐘の音なわけないでしょ。

ラネーフスカヤ (身ぶるいして)なんだか厭な気持。

フィールス   あの不幸の前にも、やはりこんなことがありました。

ガーエフ    不幸の前というと?

フィールス   売春防止法でございますよ。あれでこのあたりはすっかり寂れてしまった。

(中略)

アーニャ    ワーリャをおどかしてくれたおかげで、やっと二人きりになれたわ。

トロフィーモフ ワーリャは、僕たちがもしや恋仲になりはしないかと警戒してるんです。僕がゲイなのに、あなたとばかり仲良くするのが気に入らないんです。奥様と同じように悪い男にひっかかりやしないかと思ってね。大きなお世話です。僕のあなたへの感情は、恋なんてものを超越してるんですから。

アーニャ    ええ、わたしも。でも、それは普通、恋ではなく、友情と呼ぶのではなくて?

トロフィーモフ なんとでも呼べばいいんです。大切なのは名前ではなく、絆の深さと強さなんですから。そうは思いませんか?

アーニャ    すてきだわ、あなたの話! 今日、ここはなんていい日なんでしょう!

トロフィーモフ ええ、すばらしい天気です。

ヤーコフ、登場。

アーニャ    あら、ヤーコフさん、ロパーヒンさんなら、今、お帰りになりましたよ。

ヤーコフ    ああ、そうですか。ペーチャ、こんなところにいたのか。そろそろ帰ろう。

トロフィーモフ ああ、ありがとう。

アーニャ    あの、ヤーコフさん、風の噂に聞いたのだけれど、あなたがロパーヒンさんとお付き合いをしているというのは本当?

ヤーコフ    いいえ、違います。彼はただの上司です。よくそう言われるのですが、誤解です。僕にはれっきとしたパートナーがいるので。

アーニャ    まあ、そうなの。それはどなた? よかったら教えて。

ヤーコフとトロフィーモフ、手を繫ぐ。

アーニャ    まあ、ペーチャと? ちょっと待って。さっきからいろいろお話をきいていたのだけれど、ちょっとわからなくなったみたい。(確認する)ペーチャはヤーコフさんとお付き合いをしているの?

トロフィーモフ そのとおりです。

アーニャ    わかったわ! それも、恋を超越しているのね?

ヤーコフ    もちろんです!

トロフィーモフ 僕たちは同士、ともにたたかう仲間なのですから。

ヤーコフ    ああ。

アーニャ    まあ、あなたたちのおかげで、わたしどうかしてしまったわ。でも、すっきりした気持ち。

ヤーコフ    それはよかった。

アーニャ    なぜかしら、私、前ほど桜の園が好きでなくなってしまった気がするの。あんなに、うっとりするほど好きだったのに。お母様が大切に守ってらした子供部屋のことも。

トロフィーモフ 今や、日本中がわれわれの庭なんです。世界は広く美しい。私たちの楽園は、限られたこの桜の園だけにあるわけではない。もちろん、こうした場が必要だったことは認めます。ですが、時代は変わりつつあるのです。私たちはもっと広い世界へ目を向けなければいけないのです。

ヤーコフ    そうだとも。

アーニャ    わたしたちの今住んでいる家は、もうとうに、わたしたちの家じゃないのよ。だからわたし出て行くわ。誓ってよ。

トロフィーモフ 出てらっしゃい。そして自由になるんです、風のようにね。

アーニャ    すばらしい表現だわ!

トロフィーモフ 信じてください、アーニャ、僕を信じて! 

アーニャ    信じるわ。

(中略)

 

第四幕

ロパーヒン、登場。

ロパーヒン   皆さん、いいですか、出発までに四十七分しかありませんよ! 少々お急ぎください。

トロフィーモフ登場。

トロフィーモフ 僕のリュックサックはどこなんだ。消えてなくなっちまったよ。(ドアの口へ)アーニャ、ぼくのリュックサックがないんです! 見つからないんです!

ロパーヒン   (トロフィーモフに)どうだい、一杯やらないか?

トロフィーモフ いや、結構。

ロパーヒン   君は一体、大学に何年いるんだね?

トロフィーモフ またそれか、バカの一つ覚えみたいに。僕たちはこれで、二度と会う時はないだろうから、忠告させてもらうよ。その両手を振りまわくせをやめたまえ。

ロパーヒン   (両手を広げて)両手をふりまわす?

トロフィーモフ ああ、そうだ。ここを買い取って新しい町をつくろうって話もそうだ。そんなことを考えること自体が両手を振り回すことなんだ。まあそれはそれとして、僕はやっぱり君が好きだ。君は役者か音楽家にでもありそうな、やさしい華奢な指をしている。そして君の心もちも、根はやさしくて親切なんだよ。

ロパーヒン   (彼を抱いて)じゃこれでお別れだ。もしいるんだったら、道中の費用に少し持って行かんかね。(封筒を差し出す)

トロフィーモフ 気持ちだけ受け取っておくよ。ぼくは翻訳料をもらったんだ。ちゃんとこのポケットにある。(心配そうに)しかし、リュックサックがないんだ!

ワーリャ    (隣の部屋から)さっさと持ってって頂だい、この汚ならしいもの! (リュックサックをほうり出す)

トロフィーモフ 何をそう怒るんです、ワーリャ? こりゃ僕のじゃない!

ロパーヒン   実はこの春、こことは違う町で土地を買ってまた売って、ちょっとばかし儲けることができたんだ。だから、それを貸したげようというのさ。そう気にすることはないじゃないか。おれたちは二人とも貧乏人の出なんだから。

トロフィーモフ やめてくれ、僕は自由な人間なんだ。君たちみんなが、金持も貧乏人も一様にありがたがって、へいつくばる物なんか皆、ぼくにとっちゃこれっぽっちの権威もない。僕は、君たちの世話にはならん、君たちがいなくたって立派にやって行ける。僕は強いんだ、誇りがあるんだ。人類は、この地上で達しうる限りの、最高の真実、最高の幸福をめざして進んでいる。僕はその最前列にいるんだ!

ロパーヒン   行き着けるかね?

トロフィーモフ 行き着けるとも。(間)自分で行き着くか、さもなけりゃ、行き着く道をひとに教えてやる。

ヤーコフ登場。

ロパーヒン   ああ、ヤーコフ、今行く。出発を見送ったら、すぐにおれたちも出かけるぞ。

ヤーコフ    あの、それなんですけど。お暇をいただきたいと。

ロパーヒン   なんだって?

ヤーコフ    退職願いです。(封筒を差し出す)

ロパーヒン   なんだ、急に。

ヤーコフ    いろいろ考えたんですけど、トロフィーモフと一緒になろうと思うんです。

ロパーヒン   一緒になる? どういうことだ?

トロフィーモフ ああ、二人で農業を始めようと思うんだ。人里離れた土地を開墾してね。

ヤーコフ    これからの人生を考えたんです。都会でずっと暮らしていても、幸せなのかって、人に使われていても幸せなのかって。

ロパーヒン   そうか、幸運を祈ってる。

トロフィーモフ そういうわけなんで、ヤーコフはいただいていきますよ。

ロパーヒン   かまうもんか、僕のもんじゃない。じゃあ、これはお祝いと退職金だ。

先ほど引っ込めた封筒を出す。

トロフィーモフ いや結構。

ヤーコフ    ありがとうございます。いただいておきます!

遠くで、桜の木に斧を打ちこむ音がきこえる。

ロパーヒン   じゃ二人とも、ご機嫌よう。もう出かける時刻だ。時は遠慮なく、どんどん過ぎて行く。それでも、疲れも知らず働いていると、自分がなんのため生きているのか、わかるような気がする。それがわからず判ろうともしないで生きている人間が大勢いるけどね。世間のうわさじゃ、ガーエフさんが職に就いたそうだが、続きそうもないな。

トロフィーモフ 同感だ。きみは奥様にここに残ったらどうかと言ったそうだね。屋敷も一部を残すからと。

ロパーヒン   ああ、そうなんだ、でも、断られたよ。俺の世話にはならないって。ずいぶんお願いしたんだが。

トロフィーモフ それがあの人のプライドってことなんだろう。

(中幕)

ドゥニャーシャ登場。ヤーシャによく似たドラァグクィーンの格好。

ドゥニャーシャ (ヤーシャに)ヤーシャ、私を見て。

ヤーシャ    なにその格好?

ドゥニャーシャ 私、あんたみたいになろうと決めたの、ヤーシャ先輩みたいに。

ヤーシャ    先輩って……

ドゥニャーシャ 私、あんたに捨てられたと思った。

ヤーシャ    人聞きの悪いこと言わないで。わたしはあんたを捨てた覚えも拾った覚えもないから。

ドゥニャーシャ でも、だいじょうぶ、私は捨てられた自分を自分で拾ったの。私、あんたみたいに生きていくわヤーシャ先輩。ねえ、どうしたらいい?

ヤーシャ    それを私に聞く?

ドゥニャーシャ お願い、教えて。

ヤーシャ    そうね。私はこう思ってる。どうせ一度きりの人生なんだから、好きなように生きるって。どんなことがあっても後悔しないためには、好きなことを好きなだけして生きることが大事だと思うから。誰になんと言われようとね。

ドゥニャーシャ ああ、いいわね。そうできたら。でも、あたし華奢な女なのよ、こう見えて。デリケートな繊細な女なのよ。

ヤーシャ    じゃあ、その生き方を楽しんだらいいんじゃない? でも、泣き言を言うのはやめることね。誰か来た。さあ、行きなさい、

ドゥニャーシャ わかったわ! ありがとう、ヤーシャ先輩。

ヤーシャ    やれやれ。

ドゥニャーシャ、退場。

(中幕)

ラネーフスカヤ あの子はあなたを愛していますし、あなたもあれがまんざらでもなさそうなのに、わからないわ、どうもわからない、なぜあなたがた二人は、おたがい避け合うようなふうをなさるのか。わからないわ!

ロパーヒン   わたし自身も、じつはわからないんです。どうも何かこう妙な具合でしてね。……まだ時間があるようなら、わたしは今すぐでも結構です。……一気に片をつけて――あがりにします。あなたがいらっしゃらなくなると、どうもわたしは、申込みをしそうもありませんから。

ラネーフスカヤ いいわ、それでは、すぐあの子を呼びましょう。わたしたちは向うへ……ヤーシャ、おいで! いま呼びますからね……(ドアの口へ)ワーリャ、そこはほっといて、こっちへおいで。さ、早く! 

ヤーシャとともに退場。

やがてワーリャ登場。

ワーリャ    (長いこと、あれこれと荷物を調べる)おかしいわ、どうしても見つからない……

ロパーヒン   何がないんですか?

ワーリャ    自分でしまいこんだくせに、思い出せなくて。

ロパーヒン   あなたはこれからどうされるんです? ワーリャさん?

ワーリャ    わたし? 私は武蔵小杉へ行きます。……あすこで家政婦をすることになりましたの。女執事とでもいうのかしら。まだよくわからないのだけれど。

ロパーヒン   そうですか。(間)いよいよこの家の生活もおしまいになりましたね。

ワーリャ    どこへ行ったんだろう……ええ、この家の生活もおしまいですわ……もう二度と返っては来ませんわ。

ロパーヒン   わたしはこれからすぐ、横浜へ発ちます。この汽車でね。どうも仕事が多くてね。この屋敷うちには、エピホードフを置いておきます。あの男を雇ったのでね。

ワーリャ    あら、そう、エピホードフを……

ロパーヒン   去年の今ごろは、もう雪がふっていましたね。ところが今は、おだやかで、日が照っています。出発にはいい日、いい日旅立ちだ。

ワーリャ    ……ほんとうにそうですわね。

ヤーコフ    (ドアの口で)ロパーヒンさん!

ロパーヒン   (とうからこの呼び声を待っていたかのように)ああ、今行く!

ロパーヒン、急いで退場。
ワーリャは笑い出すが、やがて泣く。
ラネーフスカヤ夫人がはいってくる。

ラネーフスカヤ どうだったの?(間)もう行かなくちゃ。

ワーリャ    (もう泣きやんでいて、眼をふく)ええ、時間ですわ、ママ。わたし今日のうちに、武蔵小杉へ着けると思うわ。汽車に乗りおくれさえしなければ。

ラネーフスカヤ (ドアの口へ)アーニャ、支度はいいの?

(中略)

ワーリャ    ペーチャ、あったわ、あんたのリュックサック。なんて汚ならしい、おんぼろなの……

トロフィーモフ (リュックを背負いながら)さあ行きましょう、皆さん! 

ラネーフスカヤ 行きましょう! 

ロパーヒン   みんなお揃いですね? さあ行きましょう!

アーニャ    さようなら、わたしの家! さようなら、古い生活!

トロフィーモフ ようこそ、新しい生活! ……

トロフィーモフ、アーニャと一緒に退場、
ワーリャは部屋を一わたり見まわし、ゆっくりと退場。ヤーシャ、およびシャルロッタも退場。

ロパーヒン   さ、行こうじゃありませんか、皆さん。では、春まで、ご機嫌よう!

ロパーヒン、退場。
ラネーフスカヤとガーエフ、ふたりだけ残る。
部屋を眺めながら……

ガーエフ    どうしてここを出ていくの? ロパーヒンは、ずっといていいって言ったのでしょう? あの人の好意を無にするの?

ラネーフスカヤ ちゃんとお礼は伝えたわ。ありがとう、気持ちだけいただくわって。

ガーエフ    あなたにも見せたかったわ。競売の時のあの人のようす。

ラネーフスカヤ まあ、どんなだったの?

ガーエフ    デリガーノフがどんどん金額をつり上げていくのに、あの人が対抗していくようすといったら。ムキになって顔を赤くして、こぶしを振り上げて。まるで少年のようだった。あなたに桜の園を残したい一心だったのかもしれなくてよ。

ラネーフスカヤ まさか、そんなこと。

ガーエフ    わからないわよ。今となっては。そうじゃなくて?

ラネーフスカヤ 今の話をきいたら、余計にこの桜の園が美しくかけがえのないものに思えてきたわ。

ガーエフ    まあ……

ラネーフスカヤ そして、思い残すことなく、ここを出て行けるような気持ちにもなれた。

ガーエフ    そうね、たしかに。

ラネーフスカヤ ああ、わたしのいとしい、なつかしい、美しい庭! ……わたしの生活、わたしの青春、わたしの幸福、さようなら! ……さようなら!

アーニャの声  ママ!

トロフィーモフの声 おーい!

ラネーフスカヤ いま行きますよ!

ラネーフスカヤとガーエフ退場。
舞台空になる。
フィールスが現われる。

フィールス   錠がおりている。行ってしまったんだな。(腰をおろす)わしのことを忘れていったな。……なあに、いいさ……まあ、こうして坐っていよう。一生が過ぎてしまった、まるで生きた覚えがないくらいだ。……(横になる)どれ、ひとつ横になるか。……ええ、なんてざまだ、精も根もありゃしねえ、もぬけのからだ。……ええ、この……出来そこねえめが!

はるか遠くで、まるで天から響いたような物音がする。
遠く庭のほうで、木に斧を打ちこむ音だけがきこえる。

ロパーヒンが登場。

ロパーヒン   なんだ、やっぱりここにいたのか? あぶない、あぶない。おい、フィールス、病院へ行くんだ。

フィールス   わたしはここにいられればいいんで、どうぞおかまいなく。

ロパーヒン   お前がかまわなくても、おれがかまうんだ。こんなところで死なれたら、せっかくの資産価値がだいなしだからな。行くぞ。

フィールス   わたしはここにいます。

ロパーヒン   フィールス! まあ、いいだろう。もう少ししたら出かければ。

フィールス   お昼がまだでしたら、すぐに用意をさせますから。おーい。

ロパーヒン   いや、結構。

ロパーヒン   みんな行ってしまったな。

ロパーヒン   おれは、ここがこれからどうなるか考えてみる。ここだけの話だが、この桜の園は広すぎる、おれ一人の手には負えない。結局、半分は東京都の公園として残すことになった。桜の園は名前を変えて、みんなの公園になるんだな。春には花見客でにぎわうことだろう。そして、もう半分は、予定通り、男たちが集まる町になる。誰もが気兼ねなくやってこれる町。この町、新宿二丁目は、世界的にも有名なゲイタウンになるんだ。まあ、何年先、何十年先のことかわからないけどね。この町を出ていった人たちもいつか帰ってくるだろう。おれにはそう思えてしかたないんだ。おれにはふるさとというものがないから、この町がおれには故郷のようなものなんだ。帰るところのない人間にとっての帰る場所、そんな町があったらいいと思わないか? ここがそんな町になったらいいと思わないかい?

フィールス、眠っている。

ロパーヒン   眠ってるのか? まあ、いい。おれも一眠りするか。

ロパーヒン、椅子にかけて目を閉じる。
音楽。
ここを出て行った人たちが戻ってくる。
ワーリャ、ロパーヒンの肩に手を置く。
ロパーヒン、目を覚ます。
立ち上がり、振り返ると、そこには帰ってきた人たちがいる。
一同、目の前に広がる、桜の園を見ている。

 

 

 

 

2024年11月 4日 (月)

第50回公演 贋作・十二夜/贋作・冬物語

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座・高円寺 秋の劇場18 日本劇作家協会プログラム 
劇団フライングステージ第50回公演

贋作・十二夜/贋作・冬物語

2024年10月30日(水)~11月3日(日)
座・高円寺1

シェイクスピアの傑作喜劇「十二夜」、ロマンス劇「冬物語」を
現代の新宿・歌舞伎町・ゲイタウン新宿二丁目を舞台に翻案
シェイクスピアの時代に少年俳優が演じたヒロインたちを
「女装」という設定で再構成=贋作化!
ゲイの劇団によるクィア演劇としての「贋作シェイクスピア」
誰でも楽しめるハッピーな2作品を再演!

 

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「贋作・十二夜」
(2020年初演)
船が難破して双子の兄セバスチャンと生き別れになったヴァイオラは、新宿二丁目へたどり着き、男装してオーシーノ公爵に仕える。オーシーノが恋する女装の令嬢オリヴィアは、男装だとは知らずヴァイオラに恋してしまう。オリヴィアに仕える慇懃無礼な執事マルヴォーリオは、オリヴィアの叔父トービー、侍女のマライアたちに仕返しをされる。新宿二丁目にセバスチャンもやってきたことで始まる取り違えの騒動。上演時間:90分(予定)

 

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「贋作・冬物語」
(2018年初演)
歌舞伎町の王レオンティーズと新宿二丁目の王ポリクシニーズは幼なじみ。レオンティーズは身重の妻ハーマイオニとポリクシニーズの仲を疑い、嫉妬のあまりポリクシニーズを殺そうとする。出産したハーマイオニは裁判にかけられ、赤ん坊はどこか遠くへ捨てられる。レオンティーズは神の怒りに触れ、一人息子マミリアスは死に、ハーマイオニも命を落とす。悔い改めたレオンティーズ。そして、16年の時が流れた。上演時間:100分(予定)

 

□ 原作:ウィリアム・シェイクスピア

□ 作・演出:関根信一

□ 出演:   
石関 準(フライングステージ)
エスムラルダ
オバマ
岸本啓孝(フライングステージ)
木内コギト(\かむがふ/)
さいとうまこと
坂本穏光
関根信一(フライングステージ)
とつかおさむ
中嶌 聡
野口聡人
長谷川愁斗
水島和伊   
モイラ    
若林 正(さんらん/大沢事務所)

 

 

<登場人物と配役>

「贋作・十二夜」

 オリヴィア(新宿2丁目のセレブ)       …… エスムラルダ    
 マライア(オリヴィアの侍女)         …… オバマ     
 トービー(オリヴィアの叔父)         …… 岸本啓孝   
 アンドルー(オリヴィアの求婚者)       …… 水島和伊   
 フェービアン(オリヴィアの侍女)       …… 坂本穏光   
 フェステ(オリヴィアの道化)         …… 木内コギト   
 マルヴォーリオ(オリヴィアの執事)      …… 中嶌 聡  
 警官(新宿2丁目の巡査)           …… 若林 正
 ヴァイオラ(セバスチャンの妹)        …… モイラ      
 船長(ヴァイオラの友人)           …… 若林 正
 水夫の声                   …… 中嶌 聡     
 修道女(新宿2丁目の寺院)          …… 石関 準   
 オーシーノ(新宿2丁目のセレブ)       …… さいとうまこと   
 キューリオ(オーシーノの部下)        …… 長谷川愁斗  
 ヴァレンタイン(オーシーノの部下)      …… とつかおさむ 
 セバスチャン(ヴァイオラの兄)        …… 野口聡人   
 アントーニオ(セバスチャンの友人)      …… とつかおさむ
 女神(セバスチャンを導く謎の女装)      …… 関根信一
 アイドル1                  …… 木内コギト
 アイドル2                  …… 野口聡人

「贋作・冬物語」

 レオンティーズ(歌舞伎町の王)        …… 中嶌 聡
 ハーマイオニ(レオンティーズの妻)      …… エスムラルダ
 マミリアス(レオンティーズの子)       …… 長谷川愁斗
 ポーリーナ(アンティゴナスの妻)       …… 関根信一
 エミリア(ハーマイオニの侍女)        …… 石関 準
 カミロ(レオンティーズの部下)        …… とつかおさむ
 アンティゴナス(レオンティーズの部下)    …… 若林 正
 クレオミニーズ(レオンティーズの部下)    …… 坂本穏光
 ダイオン(レオンティーズの部下)       …… 水島和伊
 ホスト1                   …… 野口聡人
 ホスト2                   …… さいとうまこと
 ホスト3                   …… 坂本穏光
 牢番                     …… さいとうまこと
 役人                     …… モイラ
 貴族                     …… 若林 正
 ポリクシニーズ(新宿2丁目の王)       …… 木内コギト
 アーキデーマス(ポリクシニーズの部下)    …… オバマ
 フロリゼル(ポリクシニーズの子)       …… 野口聡人
 パーディタ(レオンティーズとハーマイオニの子)…… モイラ
 酒屋(パーディタの父と言われている人)    …… さいとうまこと
 拓也(酒屋の息子)              …… 長谷川愁斗
 オートリラン(しがない女装)         …… 岸本啓孝
 モプサ(2丁目の女装)            …… 坂本穏光
 女装1                    …… 石関 準
 女装2                    …… 中嶌 聡
 熊                      …… 坂本穏光
 DJ                     …… 若林 正
 時                      …… 若林 正

 

□ 会場
座・高円寺1
https://za-koenji.jp/
杉並区高円寺北2-1-2
JR中央線「高円寺」駅 北口を出て徒歩5分
※土日の中央線快速は高円寺駅に停車しませんのでご注意ください。
※駐車場はございませんので、お越しの際は公共交通機関をご利用ください。

□ タイムスケジュール
10月
30日(水)19:00A
31日(木)14:00A★ / 19:00B
11月
1日(金)14:00B★ / 19:00A
2日(土)14:00A★ / 19:00B
3日(日)14:00B
A「贋作・十二夜」、B「贋作・冬物語」
★は託児サービスがある回です。

携帯からの予約はこちらをクリック!


 

□ スタッフ
照明:伊藤 馨
音響:樋口亜弓
衣裳:石関 準
舞台監督:深海洋燈
フライヤーイラスト:ぢるぢる
フライヤーデザイン:石原 燃
制作:渡辺智也、三枝 黎、水月アキラ
協力:M・M・P、OVERTONE、大沢事務所、さんらん

主催:劇団フライングステージ
提携:NPO法人劇場創造ネットワーク/座・高円寺

□ 料金(全席自由・税込)
一般:4,000円 学生:2,500円 高校生以下:無料(未就学児を含む)
ペアチケット(2名) 7,000円
2作品目(A+B)/リピート(A+A,B+B):2,500円

  • 全席自由・税込 前売・当日同一価格
  • 当日券は開場と同時に発売いたします。
  • 学生チケットは、当日、学生証の提示をお願いいたします(小中学生は不要です)。
  • 1作品目をご覧になったあと、別プログラムまたは同じプログラムを2,500円でご覧いただけます。ご予約の際、2作品目またはリピートとお伝え下さい。当日は、ご覧になった1作品目のチケットをお持ちいただくようお願いいたします。
  • リピートは劇団のみ取り扱いです。
  • 事前に2公演分のご予約が可能です。2作品または同じ作品を2回ご覧いただく場合のチケット代は計6,500円となります。先にご覧いただく方を「一般」、2作品目を「2作品/リピート」としてご予約ください。
  • 2名で2作品をご覧になる方は、先にご覧いただく方を「ペアチケット」1枚、2作品目を「2作品/リピート」2枚でご予約ください。
  • 高校生以下は無料です。高校生ではない高校生にあたる年齢の方も「高校生以下」のチケットをご予約ください。

□ チケット取り扱い
9月28日(土)10:00から

○座・高円寺チケットボックス(月曜定休)
TEL 03-3223-7300(10:00-18:00)
窓口(10:00-19:00)
WEB https://za-koenji.jp/(無休24時間受付)
*座・高円寺の劇場回数券「なみちけ」もご利用いただけます。

○劇団フライングステージ
【WEB予約】https://ticket.corich.jp/apply/321053/
【Mail予約】yoyaku@flyingstage.com
【TEL/FAX予約】03-6265-9429

  • 日時、チケット種類、枚数、連絡先電話番号をお知らせください。
  • 不在の場合は留守電に「お名前、連絡先番号」をお残しください。折り返しのご連絡が翌日以降となる場合もございます。ご了承ください。
  • ペアチケット(2名)は劇団フライングステージでの受付のみ取り扱いです。

◎以下のサービスは劇場で承ります。お申込・お問い合わせは座・高円寺チケットボックス
 (TEL:03-3223-7300 10:00-18:00 月曜定休)まで

  • 車いすスペースをご利用の方は、前日までにお申し込みください(定員あり)。
  • 障がい者手帳をお持ちの方は、座・高円寺チケットボックス(窓口・電話)でご予約いただくと1割引きになります。
  • 託児サービス(定員あり・対象年齢1歳から未就学児・1週間前までに要予約)料金:1,000円。

□ ご来館のみなさまへ
新型コロナウイルス感染防止のため、ご来場の皆さまには自主的な防疫へのご協力をお願いしております。また、体調に不安を感じる方、直近に感染者との濃厚接触が確認される方は、ご来館をお控えくださいますようお願いします。

※本公演は、杉並区とパートナーシップ協定を結ぶ日本劇作家協会が、会員応募作品より座・高円寺に推薦する「日本劇作家協会プログラム」です。

 

 記録的な暑さの夏もひと段落、少しずつ秋の気配が感じられるようになったこの頃ですが、お元気でお過ごしでしょうか。劇団フライングステージ次回公演のご案内をお送りします。
 今回は、今年の3月に続いて座・高円寺1での上演、日本劇作家協会プログラムとして選ばれたシェイクスピア原作「贋作・十二夜」「贋作・冬物語」2作品の再演です。
 初演はフライングステージ主催イベント「gaku-GAY-kai」。暮れも押し迫った12月末の小劇場での上演で、なかなか観に行くことができないというご意見をいただいていました。今回は、座・高円寺1の広い舞台と客席での公演です、この機会にぜひご覧いただけたらと思います。
 シェイクスピアの作品をジェンダー、セクシュアリティの視点から読み直した舞台は、海外では多くありますが、日本では男性のみのキャストによる上演があるくらいで、深く踏み込んだものは少数です。フライングステージの「贋作シェイクスピア」は、シェイクスピアの研究をされている方々からの評価も高く、「gaku-GAY-kai2022」で上演した「贋作・テンペスト」は、海外向けのシェイクスピア研究誌「Shakespeare Studies」で取り上げていただきました。
 フライヤーの紹介文にある「クィア(Queer)」という言葉は、LGBTQのQ。元々の「奇妙な」「風変わりな」といったネガティブな意味を肯定的に捉え直したものです。他では観られない「クィア演劇」、フライングステージならではのシェイクスピアをどうぞご覧ください。
 前回に引き続き、全席自由席としています。座・高円寺1の客席はたっぷりありますので、余裕を持ってご来場いただいてだいじょうぶです。また、高校生以下を無料としています。お知り合いの若い方がいらしたら、観劇をおすすめください。高校生以外の18歳以下のみなさんも歓迎です。
 みなさまのご来場を心よりお待ちしています。(公演案内DM文面より)

 

 シェイクスピアと私と私たち

関根信一

 本日はご来場ありがとうございます。開演までのひととき、おしゃべりにお付き合いください。思いつくまま書いていたら、とても長くなってしまいました。開演前に読んでいただかなくてだいじょうぶです。これからご覧いただくうえの参考になるようなことは書いてません。

 劇団の研究所にいた数十年前のことです。その劇団ではシェイクスピアの翻訳をしている大学の先生による演出でシェイクスピアの作品を上演していて、研究所の授業でシェイクスピアについての講義がありました。講義の終わり、僕は「当時、男性ばかりが演じていたのはなぜですか?」と聞いたのでした。先生は笑いながら「それはそういうものだったんだよ」と答えてくれて。確かにその通りなのですが、僕が知りたかったのはそういうことではなくて、ただどんな言葉にしていいかわからなくてそんな質問になったのだと思うのですが、もやもやした気持ちが残りました。そのもやもやがなんだったのかは今、贋作シェイクスピアをみんなでつくるうちに、だんだんわかってきたような気がしています。

 初めて見たシェイクスピアは中学生の頃NHKで放送されたイギリスのBBC制作の「ハムレット」。主演のハムレットはデレク・ジャコビ。ケネス・ブラナー監督主演の「ハムレット」では、クローディアスを演じていますね。彼は21世紀になってゲイだとカミングアウト、同性婚もしています。
 初めて見た「十二夜」は、1986年の「野田秀樹の十二夜」。主演のヴァイオラは大地真央、セバスチャンと2役。研究所の同期と一緒に日生劇場に行き、数日後にもう一度見よう!とまた出かけたのでした。なつかしい思い出です。

 2000年にロイヤルシェイクスピアカンパニーの「マクベス」を東京グローブ座で見ました。マクベスはアントニー・シャー。演出はグレゴリー・ドーラン。マクベスが終幕、目の前に現れた、彼にしか見えない短剣の幻をつかもうとしているところを殺されるのが印象的でした。グレゴリー・ドーランはプログラムにこんなことを書いていました。「孤独なゲイの少年だった僕は演劇に出会って孤独から救われた」。僕と同じだ!ととてもうれしかったのを覚えています。
 アントニーシャーがゲイだというのは当時から知っていて、彼は「トーチソングトリロジー」のゲイの主人公アーノルドを演じていました。演劇情報誌「シアターガイド」の読者プレゼントに大阪公演中の彼の色紙があって、そこには日本語の筆文字で「おきばりやす!」と書いてありました。お茶目なというかキャンプな人だなあと思ったのでした。2001年に彼が亡くなったというニュースで、グレゴリー・ドーランが彼のパートナーだったのだということも知りました。

 2005年、日本演出者協会主催のシェイクスピアのワークショップに参加しました。講師はイギリスの名優ロジャー・リース。当時僕は彼のことを全く知らなくて、後になって調べたら、トニー賞を受賞していたり、映画でも活躍していたり、とてもキャリアのある俳優さんでした。2週間のワークショップでいくつものシェイクスピアの場面を演じました。「ジュリアスシーザー」のアントニーとシーザー、「ハムレット」の独白など。僕は初日の自己紹介で、自分がゲイだということがみんなに伝えたのですが、ロジャーもゲイだったと知ったのはずいぶん後で、2015年に彼が亡くなった時、同性のパートナーと結婚していたのだと知ったのでした。亡くなってから知ることばかりですね。

 ワークショップでロジャーは僕に「シン(そう呼ばれてました)のハムレットはユニークだね。貴族というより小心者に見える。ピーター・グリーナウェイの映画は見たことある?彼の作品に出てくる人物のようだよ」などと話してくれたのですが、精一杯ハムレット演じていたつもりの僕はちょっとがっかりしました。他の参加者の発表の時、ロジャーに「隣においで」と言われて、僕は彼のアシスタントをしていました。今思うと、彼はカミングアウトした僕を気遣ってくれたのかもしれないと思ったりしています。勝手な想像ですが。もっといろいろな話をしたかったなあとさびしい気持ちです。今僕が演じたり演出したりするときに大切にしたいと思うことの多くは、この時にロジャーから学んだことです。
 ワークショップの一日、彼がマルコムを演じていた「マクベス」のビデオを見ました。マクベスはイアン・マッケラン、彼もゲイですね。マクベス夫人はジュディ・デンチ。この映像はYouTubeにあがっているので検索したら見れると思います。アントニー・シャーの「マクベス」の配信もYouTubeに上がっていたかと思います。

 こんなふうにいろいろシェイクスピアに触れていたのですが、実際にシェイクスピアを演じることになったのは、年末のイベントgaku-GAY-kaiで贋作シリーズを始めてからです。
 贋作シリーズは誰もが知ってるお話をパロディーにするというノリで始めたのですが、だんだん誰もが知っているお話というのがなくなってきました。それならということで思いついたのがシェイクスピアでした。みんな知ってるし、知らなくても有名だしということで。

 一番最初は、2017年の「贋作・夏の夜の夢」。かわいい系のドラァグクィーンのハーミアがアルピーナさん、ホラー系(?)のドラァグクィーンがエスムラルダさん。この二人が親友なのに仲違いをする。それがどうしても見たかった。原作の職人達の劇中劇は、マンガ「ガ◯スの仮面」。「夏の夜の夢」の劇中劇はいつ見てもなんだかとってもいまいちで、これおもしろい?と思っていたのですが、この時、稽古をしながら、なんておもしろいんだろう!と認識を改めたのでした。
 シェイクスピアは書いてないけど、いかにもシェイクスピアが書いたようなセリフを書くのがとても楽しくなって、その勢いで書いたのが翌年の「贋作・冬物語」です。その後、「贋作・から騒ぎ」「贋作・十二夜」「贋作・終わりよければすべてよし」「贋作・テンペスト」「贋作・お気に召すまま」と続いています。
 いくつものシェイクスピア作品を上演しながら、当時の劇団にはこういう俳優がいたんだろうなぁと想像し、俳優が多いから役を追加しなきゃいけないなあとか、こんな役をあの俳優にやらせたい、などなど、考え苦労し、そして楽しんでいるシェイクスピアの気持ちがわかるような気がしています。演じた人たちと、それを見ていた人たちの気持ちも。贋作シェイクスピアを通じて、シェイクスピアをちょっとだけ深く知ることができたように感じています。

 本当に長いおしゃべりになりました。
 原作をご存じない方は、ご覧いただいた後、原作の戯曲を読んでもらったり、公演を見る機会があったら、こんなふうに贋作化していたんだなぁとより楽しんでもらえるかもしれません。
「贋作」と言いながらも、これこそが僕たちにとっての本当だよと言いたい気持ちでの、あえての「贋作」です。
 シェイクスピアさんありがとう。どこかで笑って見ていてくれたらうれしいです。
 本日はご来場ありがとうございました。最後までどうぞごゆっくりお楽しみください。



<劇団フライングステージ>
カミングアウトしているゲイの劇団。1992年の旗揚げ以来、ゲイであることにこだわった芝居を作り続けている。近作に、HIV内定取消訴訟を題材にした『Rights, Light ライツ ライト』、小学校と高校を舞台にした 子どもと大人のフライングステージ『アイタクテとナリタクテ/お茶と同情』、ゲイたちの老いと死を描いた『Four Seasons 四季 2022』、オムニバスの二部作『こころ、心、ココロ 日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語』など。「贋作シェイクスピア」は年末の主催イベント「gaku-GAY-kai」で『贋作・終わりよければすべてよし』『贋作・テンペスト』『贋作・お気に召すまま』など7作を上演。代表の関根信一はLGBTQを題材にした児童青少年向け演劇作品として、劇団うりんこ『わたしとわたし、ぼくとぼく』を作演出、全国巡演中。

 

 

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*贋作化した台本の一部を公開します。

  「贋作・十二夜」

原作の「十二夜」第二幕第一場

アントーニオ  セバスチャン様!

セバスチャン  では、元気で!

      セバスチャン、退場。

アントーニオ  ここは新宿二丁目、そして、オーシーノの邸には俺の敵がいくらでもいる。ああ、どうしたらいいんだ。

      二丁目の女神が現れる。

女神      ちょっとお兄さん、何を悩んでいるの?

アントーニオ  誰だ、お前は?

女神      私は、この街、新宿二丁目に暮らすしがない女装。人はこの町の守り神とも女神とも呼んでいます。

アントーニオ  はあ……

女神      悩んでいる人、迷っている人の背中をそっと押してあげるのが私の役目。

アントーニオ  なんだと?

女神      ほら、いそがないと、あの人の姿が見えなくなってしまいますよ。

アントーニオ  いいのか、追いかけても?

女神      なぜためらうのです? あなたはあの人を愛しているのでしょう? 心の底から。

アントーニオ  なぜそれを?!

女神      さあ、お行きなさい。心配なら、私がここで見ていてあげましょう。

アントーニオ  ありがとう。でも、できない! ……いや、かまうものか。おれはすっかり惚れたんだ。おれはセバスチャンを愛している。愛しているんだ。行くぞ、これからはどんな危険もおれには遊び同然だ。

      アントーニオ、退場。

女神      幸運を祈ってるわ。

      女神も退場。

 

原作の「十二夜」第二幕第五場

トービー    神様、お願い。どうかあいつが声に出して読みますように!

マライア、アンドルー、フェステ、フェービアン 読みますように!

      一同、祈る。

マルヴォーリオ (表書きを読む)「いとしいあなたへ、心からの願いをこめて」

一同      よし!!

マルヴォーリオ これはお嬢様の言葉遣いではないか。(封を開けようとして)いや、待て。でも、見たい。(開けようとして)いや、待て。いや、待てない。失礼いたします。(封を開けながら)誰に宛てたものだろう?

マライア    いいカモがひっかかったかも。

マルヴォーリオ (読む)「神のみが知るわが思い、わが想い人はいずこ? 秘めたる思い、わが唇よ、語ることなかれ」まさか、おれのことでは? やはり、おれのことでは?

トービー    お前のはずないだろうが!

マルヴォーリオ (読む)「しもべなる愛しき人、沈黙よ、わが胸に。わが命、M、O、A、I」エムオーエーアイ? 

フェービアン  なんのこと?

マライア    いいから見てなさい。

マルヴォーリオ なんだこれは? しもべなる愛しき人? おれはお嬢様のしもべだ、お嬢様の執事だからな。やはりおれにあてたものなのか? だが、最後のこれはなんだ? わが命、M、O、A、I……。エムオーエーアイ? そうか、Mはおれのイニシャルだ! だが、後がつづかない。どういうことだ? エムオーエーアイ? モアイ? 俺がモアイだというのか? そういえば、子どもの頃、俺のあだ名はモアイだったかもしれない。うん。

フェステ    バカだ、大バカだ!

マルヴォーリオ 続きを読もう。(読む)「この手紙を読んだら、よくお考えください。高貴な身分を恐れてはいけません。運命はあなたに手をさしのべています、勇気をもってその手をとるのです。将来の身分のために新しい姿を示すのです。親族と召使いには威厳をもって接するのです。服装も改めるのです。こう申し上げるのもあなたを思えばこそ。はっきり申し上げます。私はあなたの女装姿が見たいのです。黄色いウィッグに赤いハイヒール。きっとあなたは光り輝くことでしょう。どうかお忘れなく。あなたが心を決めさえすれば、高貴な身分はすぐそこに。さもなくば、永久に召使いの地位にとどまることに。ごきげんよう。あなたと新しい人生をともに歩みたいと願う、幸福で不幸な女より。わが命なり、LGBT。」なんだこれは? さっきは、M、O、A、I」、今度は、L、G、B、T。エムオーエーアイ、エルジービーティー……。モアイ……。モアイ?(叫ぶ)ああ!!!

      雷鳴。

マルヴォーリオ わかったぞ。あれ「モアイ」、これ「モアイ」だ! あれも愛、これも愛、たぶん愛、きっと愛! 松坂慶子の「愛の水中花」! すべての愛を受け入れろということだ。間違いない。ああ、なんということだ。なんと愛に満ちた言葉だろう。お嬢様、そのお心、マルヴォーリオはしかと受け止めました! ようし、ここに書かれたとおりの人間になるぞ。もう悩むことはない。お嬢様はおれを愛しているのだ。たしかにこの間、お嬢様にやさしくたずねられた。「お前はなぜ二丁目にやってきたの?」。それはハローワークで紹介されたからだが、もしかしたら運命だったのかもしれない。おれの知らないほんとうの自分が導いたことだったのかもしれない。感謝するぞ、運命よ! 黄色いウィッグに赤いハイヒール。オカダヤと伊勢丹に大急ぎだ。おや、追伸がある。(読む)「私がなにものかはもうおわかりのはず。この愛を受け入れてくれるなら、ほほえみに示してください。ほほえみこそがあなたにふさわしいのですから。誰の前でもほほえみを。どうぞお忘れなく。かしこ。」かしこ、かしこまりました! ようし、ほほえむぞ。ほほえみまくるぞ! お嬢様がのぞむことなら、なんだってやってやる!

      マルヴォーリオ退場。

 

原作の「十二夜」第三幕 第三場

      セバスチャンとアントーニオ登場。

セバスチャン  ありがとう、アントーニオ。今のおれには礼を言うことしかできない。

アントーニオ  気にしないでください。おそばにいられるだけで、私はうれしいのですから。それでは、今夜の宿を決めましょう。

セバスチャン  まだ日は高い。せっかくの新宿二丁目だ。少し歩いてみないか? 名所旧跡をたずねてみよう。

アントーニオ  申し訳ないのですが、どうぞお一人で。ここだけの話ですが、私はこの国ではおたずね者なのです。

セバスチャン  何をしたのだ?

アントーニオ  もう何年も前のことですが、この国を治めるオーシーノと一人の小姓をめぐって争ったことがあるのです。

セバスチャン  小姓?

アントーニオ  はい。オーシーノが手元に置いていた少年です。私は、どうしてもその子がほしくなり、いや、その子が私に惚れたとでもいいましょうか。ともかく、手に手を取ってこの国を出ました。オーシーノの艦隊が私の船を追ってきましたが、なんとか逃げ切ることができたのです。

セバスチャン  その少年は今どうしているのだ?

アントーニオ  海の彼方、虎ノ門ヒルズで青年実業家に囲われています。こんなことなら、すぐに返せばよかった。

セバスチャン  ならば出歩くのはやめにしよう。

アントーニオ  セバスチャン様は、どうぞお出かけになってください。この町のはずれにアイランド亭といういい宿屋があります。私は先にチェックインしてお待ちしていますから。ダブルやツインではなく、シングルを二部屋とっておきますので、ご心配なく。

セバスチャン  いいのか?

アントーニオ  もちろんです。では、この財布を。

セバスチャン  それにはおよばない。

アントーニオ  どうぞお持ちください。美しい新宿二丁目、仲通りの店をのぞいたら、何か欲しくなるかもしれません。妹さんの無事を祈りに太宗寺にお参りをしたら、お賽銭がいるでしょう。

セバスチャン  アントーニオ、すまない。それでは、この財布を預かることにしよう、しばらくの間。

アントーニオ  では、のちほど。アイランド亭ですよ。

セバスチャン  わかった。

      二人退場

 

原作の「十二夜」第五幕第一場

オリヴィア   そういうことなら我慢なさい、マルヴォーリオ。笑って許してやることも大事よ。

マルヴォーリオ このうらみ、必ずはらしてやるからな。おぼえているがいい。

オリヴィア   それから、マルヴォーリオ。もうその格好はやめていいのよ。

      間

マルヴォーリオ (静かに)お嬢様はおっしゃいました。ノンケ男が冗談や悪ふざけでする女装がおきらいだと。では、女装のお嬢様に想いを寄せていた私は、ノンケ男なのでしょうか?

オリヴィア   まあ、マルヴォーリオ……

マルヴォーリオ ともあれ、この格好は笑われるためのもの。どうせ女装するなら、笑わせるために、いや、自分らしく生きるためのものでなくてはと思いますが、いかがでしょう。

オリヴィア   あなたのいうとおりよ。

マルヴォーリオ ご結婚おめでとうございます。式に参列するのはご遠慮もうしあげます。では、ごきげんよう。

      客席へマルヴォーリオ退場。

      女神、登場。

女神      支度ができました。さあ、美しい花嫁姿をごらんください。私がこの人の母親ならこんなに嬉しいことはないでしょう。

      ヴァイオラ登場、美しいドレス姿。

オーシーノ   ここに来い、シザーリオ。いや、シザーリオではなかったな。

セバスチャン  美しく心優しい私の妹、ヴァイオラだ。

オリヴィア   シザーリオは今どこに?

オーシーノ   どこに行ってしまったのだ?

ヴァイオラ   シザーリオは、海の底で恋の歌を歌いつづけています。これからもずっと。

      二組のカップルと見守る人々。

キューリオ   (アントーニオに)お互い振られたってわけだ。

アントーニオ  そういうことだな。

キューリオ   振られた者どうし、飲みにでも行く?

アントーニオ  結婚式はいいの?

キューリオ   いいよ、いいよ。どう?

アントーニオ  じゃあ、飲みに行こう!

女神      さあ、結婚式が始まりますよ。これまでの行き違いすれ違いの数々、みんなで笑って話しましょう。運命をのりこえる力を見つけたみなさんの、怖ろしい嵐の後でたどりついた幸せが、いつまでもつづきますように。

      全員が登場。
      礼。


      幕

 

  「贋作・冬物語」

原作の「冬物語」第三幕第三場 *酒屋(原作の羊飼い)、拓也(原作の道化)

      赤子を抱いたアンティゴナスが登場。
      そこは新宿2丁目の浜辺。
      アーキデーマスが通りかかる。歌舞伎町にいたときとは別の衣裳。

アンティゴナス ああ、そこの御婦人。

アーキデーマス 何かご用?

アンティゴナス 一つお教え願いたい。大嵐に見舞われ、やっとの思いでこの浜辺にたどりついたのだが、ここはいったいどこだね?

アーキデーマス あら、それは大変だったわね。ここは新宿2丁目。2丁目のはずれの浜辺よ。

アンティゴナス そうであったか。

アーキデーマス ほんとにひどい嵐だったわね。何か悪いことが起きた時みたい。あんた、見かけない顔だけれど、新宿2丁目は初めてなのね。気をつけなさい。このあたりは猛獣が出るんで有名なところよ。

アンティゴナス 猛獣?

アーキデーマス ええ、熊に食われたりするから。

アンティゴナス それはメタファーですか?

アーキデーマス どう受け取ってもらってもいいわ。それじゃね。

      アーキデーマス、退場。

アンティゴナス ああ、お気の毒な王子様。昨夜、ハーマイオニ様の夢を見た。奥様は言われた。「この子を新宿2丁目に捨てなさい。そして、パーディタと名付けるのです。主人の命とは言え、このようなむごい仕事をするからには、今後二度と奥様のポーリーナに会うことはできませんよ」。奥様はきっと、もうお亡くなりになったのだろう。お気の毒なことだ。さて、王子様をどうしたらよいだろう。パーディタというのは女の名前ではないか? だが、奥様のお言葉を無にするわけにはいくまい。王子様を包んだ奥様のマント、そして宝石や黄金と一緒にその旨を記した手紙を入れておいたのだが……。ますます雲行きがあやしくなってきた。なんだ、あの叫び声は! 神よ、どうか船に無事に戻れますよう。ああ、熊だ、熊が出た! ああ、たすけてくれ! おれはもうおしまいだ!

      アンティゴナス、熊に追われて退場。赤子は置き去り。

      酒屋が登場。

酒屋      人間なんて、十六から二十三までの年がなきゃあいいんだ。この頃の若いもんときたら、することといったら、盗みを働いたり、喧嘩したり、色恋ですったもんだしたり。この新宿2丁目もよそと少しも変わらない。飲み終えた酒瓶やペットボトルを浜辺に捨てやがる。うちの店の自販機の脇には大きなゴミ箱があるのに、なんでそこに捨てないんだ。あいつらの目は節穴か。亀やクジラが死んだらどうするんだ、まったく。(赤子に気づいて)おや、なんだこりゃ。赤ん坊じゃないか。可愛い赤ん坊だ。男の子か女の子か……男の子だ。かわいそうにこんなところに捨てられるなんて、拾ってやるか、どうしようか? せがれが来るまで待とう。

      酒屋の息子、拓也が登場。手にゴミの入った袋を持っている。

拓也      父ちゃん、何してんだ?

酒屋      おお、拓也。そんな近くにいたのか。

拓也      おれ、今、すごいもの見たんだ。

酒屋      なんだ?

拓也      じいさんが熊に襲われてんだ。

酒屋      ……熊系のガチムチヒゲマッチョに?

拓也      うん、熊系に。

酒屋      そんなのめずらしくもないだろう。ここは新宿2丁目だぞ。

拓也      違うよ、ほんとの熊なんだって。

酒屋      熊系がじいさんを食ってたのか?

拓也      そうそう。

酒屋      だから、それのどこがめずらしいんだ?

拓也      じいさんは叫んでた。「死ぬ、死ぬ、おれの名はアンティゴナス、死ぬ、死ぬ」って。そんで死んじまった。

酒屋      まあ、イッちまったってことだな。老いてなおご盛んってわけだ。それより、これを見ろ。お前は死にかけてるもんに出会ったが、おれは生まれたばかりのもんに出会ったぞ。どうだ立派な産着だろう。えらい人の子どもに違いない。この包みはなんだ?

拓也      (包みを開けて)すっげえ! 金だ。みんな、金だ!

酒屋      ありがたいこった。おれはついてるなあ。ゴミ拾いなんかどうでもいい。すぐに帰るとしよう。

拓也      おれはあのじいさんが、どこまで食われたかちょっと見てくるよ。

酒屋      もう全部食われて骨もなくなってるだろう。いいか、せがれ、大きな声じゃ言えないが、2丁目ってのはそういうところだ。よーく覚えておけ。

拓也      うん。

      二人、赤子を抱いて、退場。

 

原作の「冬物語」第四幕第二場

      場面は変わって、新宿二丁目。十六年後。
      新宿二丁目の王、ポリクシニーズの邸宅。
      ポリクシニーズとカミロが登場。

ポリクシニーズ お願いだ、カミロ、お前の頼みを断るのはつらい。だが、承諾するのはさらにつらいのだ。

カミロ     ポリクシニーズ様。私が国を出ましてから十六年になります。長い間、この新宿2丁目で暮らしてきましたが、骨は故郷に埋めたいと思うのです。レオンティーズ様も過去を悔やまれて、私に帰って来るようにとおおせです。

ポリクシニーズ おれを愛してくれるなら、おれの元を去るのは考え直してほしい。おれは気がかりだ、おれがお前にプロポーズしたことが、お前を苦しめているのではないか?

カミロ     いいえ、そうではありません。お気持ちに添えない旨をお伝えした後も、変わらずにいてくださること、あらためてポリクシニーズ様のお心の広さに感じ入りました。

ポリクシニーズ 死んだおれの相方は、お前の良き友であった。後々のことはすべてお前に任せる、そう言っていたではないか。お前はあいつの言葉を無にするのか?

カミロ     ですが、ポリクシニーズさま……

ポリクシニーズ おれのことはポリくんと呼んでいいのだぞ。

カミロ     おそれおおい。何より、私はこれまでノンケとして過ごしてまいりました。この新宿2丁目で過ごした十六年、愛は様々、恋はいろいろと、見聞きし、知った私ですが、ポリクシニーズ様を愛することができるのかどうかは、まだわからないのです。

ポリクシニーズ 自分のことをノンケと呼ぶノンケはいない。

カミロ     ポリクシニーズ様……

ポリクシニーズ まあ、よい。無理を通すつもりはない。だが、おれはお前に生涯そばにいてもらいたいと思っているのだ。それは忘れないでくれ。

 

原作の「冬物語」第四幕第三場 *オートリラン(原作のオートリカス)、拓也(原作の道化)

      二丁目の路上。オートリランがやってくる。しがない女装。

オートリラン  (客席に気付いて)あらやだ、こんばんは。はじめまして、私はオートリラン。もちろん、芸名よ。しがない女装。見ればわかるわね。これでも、以前は王子フロリゼルさまにお仕えしてたの。でも、いろいろあって、今はフリー。いろいろってのは、まあ、小さな悪事の積み重ね。まあ、ちょっとした。今は小さな小さな商いをして、細々と暮らしてるってわけ。生きてかなきゃ。そのためなら、なんだってやるわ。未来なんて知らない、今よ、今でしょ! ねえ?(拓也に気付いて)あら、今夜のカモが来たわ。

      拓也、登場。酒屋の配達風の姿。

オートリラン  ううっ。

      オートリラン、苦しそうにうずくまる。

オートリラン  ああ、苦しい、生まれてこなければよかった!

拓也      どうしたんだい?

オートリラン  お願い、助けて。いいえ、ひと思いに死なせて! ああ、苦しい。

拓也      誰かにやられたのかい?

オートリラン  ええ、ひどいやつに。親切なお兄さん、あんたも知ってるでしょ? 私をこんなにしたのは、悪名高いオートリランという女装。

拓也      うん、知ってるよ。そいつは悪党だ。たちの悪い女装だ。街で男をひっかけては、売り飛ばすんだって。ウリ専とかいうところに。

オートリラン  まあ、おそろしい。

拓也      出禁になった店が増えすぎて、2丁目にいられなくなったって噂だったのに。

オートリラン  しぶといやつなんですよ。でなきゃ、また帰ってきたんですかねえ。とにかく、あいつは私から有り金全部とりあげてどっかに行っちまったんですよ。ああ、どうしよう。

拓也      だいじょうぶかい。少しでよければ貸すよ。

オートリラン  ならお願いできるかしら。きっと、きっとお返しするんで。

      拓也、金を渡す。

オートリラン  ありがとうございます、太っ腹なお兄さん。お言葉に甘えて、一つお願いをきいてもらえるかしら?

拓也      なんだい、おれにできることならなんでもするよ。

オートリラン  実は、私、これからある人と会う約束をしてるんです。でも、こんな具合じゃ行けないんで、かわりに行ってもらえるとたすかるんだけど……

拓也      ああ、いいよ。どうすればいい?

オートリラン  仲通りの少し先、新宿通りの手前に看板なしで赤いランプだけが灯ってる店があります。ドアを開けると、あなたぐらいの年頃のかわいい男の子が五、六人いて、「いらっしゃいませ!」って言うでしょうから、こう言ってもらえます?

拓也      何て言えばいいんだい?

オートリラン  「今日からよろしくお願いします。」

拓也      (繰り返す)「今日からよろしくお願いします。」

オートリラン  そう。そうすると、店の奥から少し年上の男の人が出てきて、あなたを座らせてくれるから、そこにしばらくいてほしいの。

拓也      いればいいんだね。

オートリラン  ええ。あ、もしかしたら、退屈してきたころに「出かけないか?」って言われるかもしれない。

拓也      誰に?

オートリラン  誰かに。

拓也      そしたら?

オートリラン  そしたら、悪いんだけど、その人と一緒に出かけてほしいの。

拓也      ほんとうはあんたが行くはずなんだよね。おれなんかでいいのかな?

オートリラン  だいじょぶ、だいじょぶ。話は全部ついてるから。お願いできるかしら?

拓也      わかった、やってみるよ。

オートリラン  (独りごちて)よし!

拓也      もう具合はいいのかい?

オートリラン  (苦しむ)ううっ。また痛みがぶり返してきた。

拓也      無理しないで、今日はそのまま帰るといいよ。

オートリラン  ありがとう。親切なお兄さん。ほんとうにありがとう。

      オートリラン、涙ぐむ。

拓也      泣くなよ! じゃあね。

      拓也、退場する。

オートリラン  (さっぱりと顔を上げて)よし、これで今日のノルマは達成と。博多天神でラーメンでも食ってくかな。ああ、いい夜だ。いっぱいやってくか。

      オートリラン、鼻歌まじりに退場。

 

原作の「冬物語」第四幕第四場

パーディタ   でも、大丈夫なのですか? 王子様が身分を隠して、私のようないやしい娘と一緒にいるなんて。

フロリゼル   何をいうんだパーディタ。僕は、あの日、君のお父さんが経営しているこのクラブでけだるくカウンターにもたれていた君に出会ったことを、神に感謝しているんだ。

パーディタ   私も、あの夏の日、あなたが父の店に宅配便の大きな荷物を汗だくになって持ってきてくれたことを忘れはしません。

フロリゼル   君は僕によく冷えたレッドブルを手渡してくれたね。美しい頬を恥じらいで赤く染めながら。僕も忘れられない、僕たち二人の記念日だ。

パーディタ   でもフロリゼル、私には身分のちがいがこわくてなりません。私は今でも、あなたのお父様、ポリクシニーズさまがふいにここに現れるのではないかと心配です。

フロリゼル   僕は2丁目の王子という身分が不自由でならないんだ。父は僕に亡くなったもう一人の父のようになってほしいとそればかりを言う。身分を隠して父に内緒で宅配便のバイトを始めたのも、父から逃れたい一心なのだ。

パーディタ   ですが、お父様は、跡継ぎのあなたがこんなガテン系な姿をされているのをごらんになったら、どんな顔をなさるでしょう。

フロリゼル   いいかい、パーディタ、何も気にすることはない。自由に思いのままに生きるんだ。僕たちは若い。ただ、楽しいことだけに心を向けて、今を楽しもう。神々でさえ、恋に落ちたときは、けものに姿を変えたというではないか。雄牛や白鳥や大鷲に。僕がクロネコになったって、かまわないだろう。

パーディタ   まあ、すてき。でも、それは佐川のコスプレだけれど。

フロリゼル   細かいことは気にしない。

<中略>

アーキデーマス モプサ、どうしたの? 浮かない顔ね?

モプサ     私の大好きな拓也がまだ来ないのよ。

パーディタ   まあ、お兄様が? 今日は配達は終わりよね?

酒屋      ああ、そのはずだが。

      拓也が駆け込んでくる。

拓也      ごめん、おそくなった。

モプサ     もうどこ行ってたのよ!

拓也      人助けをしてたんだ。

モプサ     あら、なんだかいい匂い? まさか女?

拓也      違うよ。男。男の人と一緒にお風呂に入ったんだ。

モプサ     それが人助けなの?

拓也      うん。お金ももらったよ。

モプサ     意味がわからない。

<中略>

      ポリクシニーズ、変装を捨てる。

フロリゼル   父上!

パーディタ   ポリクシニーズさま。

酒屋      なんということだ。佐川さんはポリクシニーズさまのご子息フロリゼルさま。

ポリクシニーズ お前はもう私の息子ではない。将来、新宿2丁目の王になろうというものが酒屋の娘。しかも女装と結婚するとは。おれの怒りはおさまらないが、死刑だけは勘弁してやる。酒屋の娘、いや、女装、お前も宅配便の男に嫁ぐのがふさわしい。もう王子ではないのだからな。いいか、二人とも、二度と私の目の前に現れるな。

      ポリクシニーズ、出て行こうとする。

アーキデーマス あらあら、それが新宿2丁目の王のすることかしら?

ポリクシニーズ なんだと?

アーキデーマス 古いタイプの頑固な女装からひと言言わせてもらうわ。ポリクシニーズ、私たちは、そうやって私たちを認めない連中と闘ってきたのではなかった? あなたはすっかり変わってしまったのね。

ポリクシニーズ ……。

アーキデーマス だとしたら、残念。若い頃のあなたは大きな夢を実現しようとして、いつも輝いていた。星のように燃えさかっていた。あの頃のあなたはもういない。

ポリクシニーズ アーキデーマス……

アーキデーマス さあ、お行きなさい。良い方のあなたは、亡くなった彼が持って行ってしまったのね。そう思うことにするわ。ごきげんよう。

ポリクシニーズ フロリゼル、おれはお前に失望したのだ。なぜ父に正面から戦いを挑み、勝とうとしない? 話し合おうとしない? それが残念だ。

      ポリクシニーズ、退場。

 

原作の「冬物語」第五幕第三場

      ハーマイオニ、パーディタ、レオンティーズ抱き合う。

ポーリーナ   愛を得られた皆様は、それぞれのよろこびを分かち合ってください。私は帰るあてのない夫を命が果てるまで悼むことにします。

レオンティーズ 嘆くのはよせ、ポーリーナ。お前もふたたび夫を得るがよい。カミロと結婚するのだ。これは王としての頼みだ。どうかな?

ポーリーナ   それは……

カミロ     レオンティーズさま、申し訳ありません。そして、ポーリーナ様も。

ポーリーナ   どうぞお気遣いなく。

カミロ     私には結婚を約束した相手がおります。

レオンティーズ なんだと、誰だ?

ポーリーナ   誰?

カミロ     ポリクシニーズ様です。

      一同、大いに驚く。

カミロ     (ポリクシニーズに)お返事をお待ちいただいていたプロポーズ、謹んでお受けいたします。

ポリクシニーズ カミロ!

カミロ     ポリくん!

レオンティーズ いいだろう。ポリクシニーズ、おれはもう嫉妬はしない。心からの祝福を送るぞ。我が息子フロリゼル。我が娘パーディタ。顔を上げて、お前達の五人目の父親に挨拶するがいい。

フロリゼル   (カミロに)父上!

パーディタ   (カミロに)お父様!

      間

フロリゼル   (ポリクシニーズに)父上、私はもう逃げません。わが町新宿2丁目を、わが妻パーディタとともに治めていきます。父上になんと言われようとも。私たちは二人で一人なのですから。

ポリクシニーズ よく言ってくれた、わが息子よ。私はその言葉を待っていたのだ。安心して我らが国の未来をその手に委ねよう。

フロリゼル   ありがとうございます。

ポリクシニーズ (パーディタに)わが娘よ、年老いた王の心の狭さをどうか許してほしい。時は流れ、世のことわりも人の心も移りゆく。すべてが変わってゆくなか、決して変わらぬものがあることを、あなたは思い出させてくれた。

パーディタ   お父様……

ポリクシニーズ 息子をよろしく頼みます。よくご存じだろうが、まだまだ一人では心許ない。

パーディタ   はい、どうぞお任せ下さい!

フロリゼル   パーディタ……

レオンティーズ さあ、ハーマイオニ、これがお前の娘婿になる2丁目の王子だ。天のお導きにより、私たちの王子、もとい姫と婚約を交わしたのだ。

ハーマイオニ  さすが私の子、見事な女装。

パーディタ   ありがとうございます、お母様。

レオンティーズ さすが私の子とは、どういうことだ?

フロリゼル   まさか、ハーマイオニ様も女装?

一同      え、女装?

ハーマイオニ  ええ、女装。さあ、行って話しましょう。離ればなれになって以来、私たちがそれぞれどのような役を演じてきたか。ポーリーナ、案内しておくれ。

ポーリーナ   かしこまりました。さあ、どうぞ。

      時が登場。

       われら役者は影法師、芝居はこの世を映す鏡と申します。この鏡がみなさまのお気に召しましたなら恐悦至極。お気に召さずばただ夢を見たと思ってお許しください。ごらん頂きました物語は、すべてみなさまの想像力によるもの。みなさまのおかげをもちまして、長い旅を終えることが出来ました。それでは皆さま、お別れに、私、時が、この夢の終わりと、新たな夢の始まりをお知らせします。ごきげんよう。

      一同、礼。

      幕

 

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