第50回公演 贋作・十二夜/贋作・冬物語
座・高円寺 秋の劇場18 日本劇作家協会プログラム
劇団フライングステージ第50回公演
贋作・十二夜/贋作・冬物語
2024年10月30日(水)~11月3日(日)
座・高円寺1
シェイクスピアの傑作喜劇「十二夜」、ロマンス劇「冬物語」を
現代の新宿・歌舞伎町・ゲイタウン新宿二丁目を舞台に翻案
シェイクスピアの時代に少年俳優が演じたヒロインたちを
「女装」という設定で再構成=贋作化!
ゲイの劇団によるクィア演劇としての「贋作シェイクスピア」
誰でも楽しめるハッピーな2作品を再演!
「贋作・十二夜」(2020年初演)
船が難破して双子の兄セバスチャンと生き別れになったヴァイオラは、新宿二丁目へたどり着き、男装してオーシーノ公爵に仕える。オーシーノが恋する女装の令嬢オリヴィアは、男装だとは知らずヴァイオラに恋してしまう。オリヴィアに仕える慇懃無礼な執事マルヴォーリオは、オリヴィアの叔父トービー、侍女のマライアたちに仕返しをされる。新宿二丁目にセバスチャンもやってきたことで始まる取り違えの騒動。上演時間:90分(予定)
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「贋作・冬物語」(2018年初演)
歌舞伎町の王レオンティーズと新宿二丁目の王ポリクシニーズは幼なじみ。レオンティーズは身重の妻ハーマイオニとポリクシニーズの仲を疑い、嫉妬のあまりポリクシニーズを殺そうとする。出産したハーマイオニは裁判にかけられ、赤ん坊はどこか遠くへ捨てられる。レオンティーズは神の怒りに触れ、一人息子マミリアスは死に、ハーマイオニも命を落とす。悔い改めたレオンティーズ。そして、16年の時が流れた。上演時間:100分(予定)
□ 原作:ウィリアム・シェイクスピア
□ 作・演出:関根信一
□ 出演:
石関 準(フライングステージ)
エスムラルダ
オバマ
岸本啓孝(フライングステージ)
木内コギト(\かむがふ/)
さいとうまこと
坂本穏光
関根信一(フライングステージ)
とつかおさむ
中嶌 聡
野口聡人
長谷川愁斗
水島和伊
モイラ
若林 正(さんらん/大沢事務所)
<登場人物と配役>
「贋作・十二夜」
オリヴィア(新宿2丁目のセレブ) …… エスムラルダ
マライア(オリヴィアの侍女) …… オバマ
トービー(オリヴィアの叔父) …… 岸本啓孝
アンドルー(オリヴィアの求婚者) …… 水島和伊
フェービアン(オリヴィアの侍女) …… 坂本穏光
フェステ(オリヴィアの道化) …… 木内コギト
マルヴォーリオ(オリヴィアの執事) …… 中嶌 聡
警官(新宿2丁目の巡査) …… 若林 正
ヴァイオラ(セバスチャンの妹) …… モイラ
船長(ヴァイオラの友人) …… 若林 正
水夫の声 …… 中嶌 聡
修道女(新宿2丁目の寺院) …… 石関 準
オーシーノ(新宿2丁目のセレブ) …… さいとうまこと
キューリオ(オーシーノの部下) …… 長谷川愁斗
ヴァレンタイン(オーシーノの部下) …… とつかおさむ
セバスチャン(ヴァイオラの兄) …… 野口聡人
アントーニオ(セバスチャンの友人) …… とつかおさむ
女神(セバスチャンを導く謎の女装) …… 関根信一
アイドル1 …… 木内コギト
アイドル2 …… 野口聡人
「贋作・冬物語」
レオンティーズ(歌舞伎町の王) …… 中嶌 聡
ハーマイオニ(レオンティーズの妻) …… エスムラルダ
マミリアス(レオンティーズの子) …… 長谷川愁斗
ポーリーナ(アンティゴナスの妻) …… 関根信一
エミリア(ハーマイオニの侍女) …… 石関 準
カミロ(レオンティーズの部下) …… とつかおさむ
アンティゴナス(レオンティーズの部下) …… 若林 正
クレオミニーズ(レオンティーズの部下) …… 坂本穏光
ダイオン(レオンティーズの部下) …… 水島和伊
ホスト1 …… 野口聡人
ホスト2 …… さいとうまこと
ホスト3 …… 坂本穏光
牢番 …… さいとうまこと
役人 …… モイラ
貴族 …… 若林 正
ポリクシニーズ(新宿2丁目の王) …… 木内コギト
アーキデーマス(ポリクシニーズの部下) …… オバマ
フロリゼル(ポリクシニーズの子) …… 野口聡人
パーディタ(レオンティーズとハーマイオニの子)…… モイラ
酒屋(パーディタの父と言われている人) …… さいとうまこと
拓也(酒屋の息子) …… 長谷川愁斗
オートリラン(しがない女装) …… 岸本啓孝
モプサ(2丁目の女装) …… 坂本穏光
女装1 …… 石関 準
女装2 …… 中嶌 聡
熊 …… 坂本穏光
DJ …… 若林 正
時 …… 若林 正
□ 会場
座・高円寺1
https://za-koenji.jp/
杉並区高円寺北2-1-2
JR中央線「高円寺」駅 北口を出て徒歩5分
※土日の中央線快速は高円寺駅に停車しませんのでご注意ください。
※駐車場はございませんので、お越しの際は公共交通機関をご利用ください。
□ タイムスケジュール
10月
30日(水)19:00A
31日(木)14:00A★ / 19:00B
11月
1日(金)14:00B★ / 19:00A
2日(土)14:00A★ / 19:00B
3日(日)14:00B
A「贋作・十二夜」、B「贋作・冬物語」
★は託児サービスがある回です。
□ スタッフ
照明:伊藤 馨
音響:樋口亜弓
衣裳:石関 準
舞台監督:深海洋燈
フライヤーイラスト:ぢるぢる
フライヤーデザイン:石原 燃
制作:渡辺智也、三枝 黎、水月アキラ
協力:M・M・P、OVERTONE、大沢事務所、さんらん
主催:劇団フライングステージ
提携:NPO法人劇場創造ネットワーク/座・高円寺
□ 料金(全席自由・税込)
一般:4,000円 学生:2,500円 高校生以下:無料(未就学児を含む)
ペアチケット(2名) 7,000円
2作品目(A+B)/リピート(A+A,B+B):2,500円
- 全席自由・税込 前売・当日同一価格
- 当日券は開場と同時に発売いたします。
- 学生チケットは、当日、学生証の提示をお願いいたします(小中学生は不要です)。
- 1作品目をご覧になったあと、別プログラムまたは同じプログラムを2,500円でご覧いただけます。ご予約の際、2作品目またはリピートとお伝え下さい。当日は、ご覧になった1作品目のチケットをお持ちいただくようお願いいたします。
- リピートは劇団のみ取り扱いです。
- 事前に2公演分のご予約が可能です。2作品または同じ作品を2回ご覧いただく場合のチケット代は計6,500円となります。先にご覧いただく方を「一般」、2作品目を「2作品/リピート」としてご予約ください。
- 2名で2作品をご覧になる方は、先にご覧いただく方を「ペアチケット」1枚、2作品目を「2作品/リピート」2枚でご予約ください。
- 高校生以下は無料です。高校生ではない高校生にあたる年齢の方も「高校生以下」のチケットをご予約ください。
□ チケット取り扱い
9月28日(土)10:00から
○座・高円寺チケットボックス(月曜定休)
TEL 03-3223-7300(10:00-18:00)
窓口(10:00-19:00)
WEB https://za-koenji.jp/(無休24時間受付)
*座・高円寺の劇場回数券「なみちけ」もご利用いただけます。
○劇団フライングステージ
【WEB予約】https://ticket.corich.jp/apply/321053/
【Mail予約】yoyaku@flyingstage.com
【TEL/FAX予約】03-6265-9429
- 日時、チケット種類、枚数、連絡先電話番号をお知らせください。
- 不在の場合は留守電に「お名前、連絡先番号」をお残しください。折り返しのご連絡が翌日以降となる場合もございます。ご了承ください。
- ペアチケット(2名)は劇団フライングステージでの受付のみ取り扱いです。
◎以下のサービスは劇場で承ります。お申込・お問い合わせは座・高円寺チケットボックス
(TEL:03-3223-7300 10:00-18:00 月曜定休)まで
- 車いすスペースをご利用の方は、前日までにお申し込みください(定員あり)。
- 障がい者手帳をお持ちの方は、座・高円寺チケットボックス(窓口・電話)でご予約いただくと1割引きになります。
- 託児サービス(定員あり・対象年齢1歳から未就学児・1週間前までに要予約)料金:1,000円。
□ ご来館のみなさまへ
新型コロナウイルス感染防止のため、ご来場の皆さまには自主的な防疫へのご協力をお願いしております。また、体調に不安を感じる方、直近に感染者との濃厚接触が確認される方は、ご来館をお控えくださいますようお願いします。
※本公演は、杉並区とパートナーシップ協定を結ぶ日本劇作家協会が、会員応募作品より座・高円寺に推薦する「日本劇作家協会プログラム」です。
記録的な暑さの夏もひと段落、少しずつ秋の気配が感じられるようになったこの頃ですが、お元気でお過ごしでしょうか。劇団フライングステージ次回公演のご案内をお送りします。
今回は、今年の3月に続いて座・高円寺1での上演、日本劇作家協会プログラムとして選ばれたシェイクスピア原作「贋作・十二夜」「贋作・冬物語」2作品の再演です。
初演はフライングステージ主催イベント「gaku-GAY-kai」。暮れも押し迫った12月末の小劇場での上演で、なかなか観に行くことができないというご意見をいただいていました。今回は、座・高円寺1の広い舞台と客席での公演です、この機会にぜひご覧いただけたらと思います。
シェイクスピアの作品をジェンダー、セクシュアリティの視点から読み直した舞台は、海外では多くありますが、日本では男性のみのキャストによる上演があるくらいで、深く踏み込んだものは少数です。フライングステージの「贋作シェイクスピア」は、シェイクスピアの研究をされている方々からの評価も高く、「gaku-GAY-kai2022」で上演した「贋作・テンペスト」は、海外向けのシェイクスピア研究誌「Shakespeare Studies」で取り上げていただきました。
フライヤーの紹介文にある「クィア(Queer)」という言葉は、LGBTQのQ。元々の「奇妙な」「風変わりな」といったネガティブな意味を肯定的に捉え直したものです。他では観られない「クィア演劇」、フライングステージならではのシェイクスピアをどうぞご覧ください。
前回に引き続き、全席自由席としています。座・高円寺1の客席はたっぷりありますので、余裕を持ってご来場いただいてだいじょうぶです。また、高校生以下を無料としています。お知り合いの若い方がいらしたら、観劇をおすすめください。高校生以外の18歳以下のみなさんも歓迎です。
みなさまのご来場を心よりお待ちしています。(公演案内DM文面より)
シェイクスピアと私と私たち
関根信一
本日はご来場ありがとうございます。開演までのひととき、おしゃべりにお付き合いください。思いつくまま書いていたら、とても長くなってしまいました。開演前に読んでいただかなくてだいじょうぶです。これからご覧いただくうえの参考になるようなことは書いてません。
劇団の研究所にいた数十年前のことです。その劇団ではシェイクスピアの翻訳をしている大学の先生による演出でシェイクスピアの作品を上演していて、研究所の授業でシェイクスピアについての講義がありました。講義の終わり、僕は「当時、男性ばかりが演じていたのはなぜですか?」と聞いたのでした。先生は笑いながら「それはそういうものだったんだよ」と答えてくれて。確かにその通りなのですが、僕が知りたかったのはそういうことではなくて、ただどんな言葉にしていいかわからなくてそんな質問になったのだと思うのですが、もやもやした気持ちが残りました。そのもやもやがなんだったのかは今、贋作シェイクスピアをみんなでつくるうちに、だんだんわかってきたような気がしています。
初めて見たシェイクスピアは中学生の頃NHKで放送されたイギリスのBBC制作の「ハムレット」。主演のハムレットはデレク・ジャコビ。ケネス・ブラナー監督主演の「ハムレット」では、クローディアスを演じていますね。彼は21世紀になってゲイだとカミングアウト、同性婚もしています。
初めて見た「十二夜」は、1986年の「野田秀樹の十二夜」。主演のヴァイオラは大地真央、セバスチャンと2役。研究所の同期と一緒に日生劇場に行き、数日後にもう一度見よう!とまた出かけたのでした。なつかしい思い出です。2000年にロイヤルシェイクスピアカンパニーの「マクベス」を東京グローブ座で見ました。マクベスはアントニー・シャー。演出はグレゴリー・ドーラン。マクベスが終幕、目の前に現れた、彼にしか見えない短剣の幻をつかもうとしているところを殺されるのが印象的でした。グレゴリー・ドーランはプログラムにこんなことを書いていました。「孤独なゲイの少年だった僕は演劇に出会って孤独から救われた」。僕と同じだ!ととてもうれしかったのを覚えています。
アントニーシャーがゲイだというのは当時から知っていて、彼は「トーチソングトリロジー」のゲイの主人公アーノルドを演じていました。演劇情報誌「シアターガイド」の読者プレゼントに大阪公演中の彼の色紙があって、そこには日本語の筆文字で「おきばりやす!」と書いてありました。お茶目なというかキャンプな人だなあと思ったのでした。2001年に彼が亡くなったというニュースで、グレゴリー・ドーランが彼のパートナーだったのだということも知りました。2005年、日本演出者協会主催のシェイクスピアのワークショップに参加しました。講師はイギリスの名優ロジャー・リース。当時僕は彼のことを全く知らなくて、後になって調べたら、トニー賞を受賞していたり、映画でも活躍していたり、とてもキャリアのある俳優さんでした。2週間のワークショップでいくつものシェイクスピアの場面を演じました。「ジュリアスシーザー」のアントニーとシーザー、「ハムレット」の独白など。僕は初日の自己紹介で、自分がゲイだということがみんなに伝えたのですが、ロジャーもゲイだったと知ったのはずいぶん後で、2015年に彼が亡くなった時、同性のパートナーと結婚していたのだと知ったのでした。亡くなってから知ることばかりですね。
ワークショップでロジャーは僕に「シン(そう呼ばれてました)のハムレットはユニークだね。貴族というより小心者に見える。ピーター・グリーナウェイの映画は見たことある?彼の作品に出てくる人物のようだよ」などと話してくれたのですが、精一杯ハムレット演じていたつもりの僕はちょっとがっかりしました。他の参加者の発表の時、ロジャーに「隣においで」と言われて、僕は彼のアシスタントをしていました。今思うと、彼はカミングアウトした僕を気遣ってくれたのかもしれないと思ったりしています。勝手な想像ですが。もっといろいろな話をしたかったなあとさびしい気持ちです。今僕が演じたり演出したりするときに大切にしたいと思うことの多くは、この時にロジャーから学んだことです。
ワークショップの一日、彼がマルコムを演じていた「マクベス」のビデオを見ました。マクベスはイアン・マッケラン、彼もゲイですね。マクベス夫人はジュディ・デンチ。この映像はYouTubeにあがっているので検索したら見れると思います。アントニー・シャーの「マクベス」の配信もYouTubeに上がっていたかと思います。こんなふうにいろいろシェイクスピアに触れていたのですが、実際にシェイクスピアを演じることになったのは、年末のイベントgaku-GAY-kaiで贋作シリーズを始めてからです。
贋作シリーズは誰もが知ってるお話をパロディーにするというノリで始めたのですが、だんだん誰もが知っているお話というのがなくなってきました。それならということで思いついたのがシェイクスピアでした。みんな知ってるし、知らなくても有名だしということで。一番最初は、2017年の「贋作・夏の夜の夢」。かわいい系のドラァグクィーンのハーミアがアルピーナさん、ホラー系(?)のドラァグクィーンがエスムラルダさん。この二人が親友なのに仲違いをする。それがどうしても見たかった。原作の職人達の劇中劇は、マンガ「ガ◯スの仮面」。「夏の夜の夢」の劇中劇はいつ見てもなんだかとってもいまいちで、これおもしろい?と思っていたのですが、この時、稽古をしながら、なんておもしろいんだろう!と認識を改めたのでした。
シェイクスピアは書いてないけど、いかにもシェイクスピアが書いたようなセリフを書くのがとても楽しくなって、その勢いで書いたのが翌年の「贋作・冬物語」です。その後、「贋作・から騒ぎ」「贋作・十二夜」「贋作・終わりよければすべてよし」「贋作・テンペスト」「贋作・お気に召すまま」と続いています。
いくつものシェイクスピア作品を上演しながら、当時の劇団にはこういう俳優がいたんだろうなぁと想像し、俳優が多いから役を追加しなきゃいけないなあとか、こんな役をあの俳優にやらせたい、などなど、考え苦労し、そして楽しんでいるシェイクスピアの気持ちがわかるような気がしています。演じた人たちと、それを見ていた人たちの気持ちも。贋作シェイクスピアを通じて、シェイクスピアをちょっとだけ深く知ることができたように感じています。本当に長いおしゃべりになりました。
原作をご存じない方は、ご覧いただいた後、原作の戯曲を読んでもらったり、公演を見る機会があったら、こんなふうに贋作化していたんだなぁとより楽しんでもらえるかもしれません。
「贋作」と言いながらも、これこそが僕たちにとっての本当だよと言いたい気持ちでの、あえての「贋作」です。
シェイクスピアさんありがとう。どこかで笑って見ていてくれたらうれしいです。
本日はご来場ありがとうございました。最後までどうぞごゆっくりお楽しみください。
<劇団フライングステージ>
カミングアウトしているゲイの劇団。1992年の旗揚げ以来、ゲイであることにこだわった芝居を作り続けている。近作に、HIV内定取消訴訟を題材にした『Rights, Light ライツ ライト』、小学校と高校を舞台にした 子どもと大人のフライングステージ『アイタクテとナリタクテ/お茶と同情』、ゲイたちの老いと死を描いた『Four Seasons 四季 2022』、オムニバスの二部作『こころ、心、ココロ 日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語』など。「贋作シェイクスピア」は年末の主催イベント「gaku-GAY-kai」で『贋作・終わりよければすべてよし』『贋作・テンペスト』『贋作・お気に召すまま』など7作を上演。代表の関根信一はLGBTQを題材にした児童青少年向け演劇作品として、劇団うりんこ『わたしとわたし、ぼくとぼく』を作演出、全国巡演中。
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*贋作化した台本の一部を公開します。
「贋作・十二夜」
原作の「十二夜」第二幕第一場
アントーニオ セバスチャン様!セバスチャン では、元気で!
セバスチャン、退場。
アントーニオ ここは新宿二丁目、そして、オーシーノの邸には俺の敵がいくらでもいる。ああ、どうしたらいいんだ。
二丁目の女神が現れる。
女神 ちょっとお兄さん、何を悩んでいるの?
アントーニオ 誰だ、お前は?
女神 私は、この街、新宿二丁目に暮らすしがない女装。人はこの町の守り神とも女神とも呼んでいます。
アントーニオ はあ……
女神 悩んでいる人、迷っている人の背中をそっと押してあげるのが私の役目。
アントーニオ なんだと?
女神 ほら、いそがないと、あの人の姿が見えなくなってしまいますよ。
アントーニオ いいのか、追いかけても?
女神 なぜためらうのです? あなたはあの人を愛しているのでしょう? 心の底から。
アントーニオ なぜそれを?!
女神 さあ、お行きなさい。心配なら、私がここで見ていてあげましょう。
アントーニオ ありがとう。でも、できない! ……いや、かまうものか。おれはすっかり惚れたんだ。おれはセバスチャンを愛している。愛しているんだ。行くぞ、これからはどんな危険もおれには遊び同然だ。
アントーニオ、退場。
女神 幸運を祈ってるわ。
女神も退場。
原作の「十二夜」第二幕第五場
トービー 神様、お願い。どうかあいつが声に出して読みますように!
マライア、アンドルー、フェステ、フェービアン 読みますように!一同、祈る。
マルヴォーリオ (表書きを読む)「いとしいあなたへ、心からの願いをこめて」
一同 よし!!
マルヴォーリオ これはお嬢様の言葉遣いではないか。(封を開けようとして)いや、待て。でも、見たい。(開けようとして)いや、待て。いや、待てない。失礼いたします。(封を開けながら)誰に宛てたものだろう?
マライア いいカモがひっかかったかも。
マルヴォーリオ (読む)「神のみが知るわが思い、わが想い人はいずこ? 秘めたる思い、わが唇よ、語ることなかれ」まさか、おれのことでは? やはり、おれのことでは?
トービー お前のはずないだろうが!
マルヴォーリオ (読む)「しもべなる愛しき人、沈黙よ、わが胸に。わが命、M、O、A、I」エムオーエーアイ?
フェービアン なんのこと?
マライア いいから見てなさい。
マルヴォーリオ なんだこれは? しもべなる愛しき人? おれはお嬢様のしもべだ、お嬢様の執事だからな。やはりおれにあてたものなのか? だが、最後のこれはなんだ? わが命、M、O、A、I……。エムオーエーアイ? そうか、Mはおれのイニシャルだ! だが、後がつづかない。どういうことだ? エムオーエーアイ? モアイ? 俺がモアイだというのか? そういえば、子どもの頃、俺のあだ名はモアイだったかもしれない。うん。
フェステ バカだ、大バカだ!
マルヴォーリオ 続きを読もう。(読む)「この手紙を読んだら、よくお考えください。高貴な身分を恐れてはいけません。運命はあなたに手をさしのべています、勇気をもってその手をとるのです。将来の身分のために新しい姿を示すのです。親族と召使いには威厳をもって接するのです。服装も改めるのです。こう申し上げるのもあなたを思えばこそ。はっきり申し上げます。私はあなたの女装姿が見たいのです。黄色いウィッグに赤いハイヒール。きっとあなたは光り輝くことでしょう。どうかお忘れなく。あなたが心を決めさえすれば、高貴な身分はすぐそこに。さもなくば、永久に召使いの地位にとどまることに。ごきげんよう。あなたと新しい人生をともに歩みたいと願う、幸福で不幸な女より。わが命なり、LGBT。」なんだこれは? さっきは、M、O、A、I」、今度は、L、G、B、T。エムオーエーアイ、エルジービーティー……。モアイ……。モアイ?(叫ぶ)ああ!!!
雷鳴。
マルヴォーリオ わかったぞ。あれ「モアイ」、これ「モアイ」だ! あれも愛、これも愛、たぶん愛、きっと愛! 松坂慶子の「愛の水中花」! すべての愛を受け入れろということだ。間違いない。ああ、なんということだ。なんと愛に満ちた言葉だろう。お嬢様、そのお心、マルヴォーリオはしかと受け止めました! ようし、ここに書かれたとおりの人間になるぞ。もう悩むことはない。お嬢様はおれを愛しているのだ。たしかにこの間、お嬢様にやさしくたずねられた。「お前はなぜ二丁目にやってきたの?」。それはハローワークで紹介されたからだが、もしかしたら運命だったのかもしれない。おれの知らないほんとうの自分が導いたことだったのかもしれない。感謝するぞ、運命よ! 黄色いウィッグに赤いハイヒール。オカダヤと伊勢丹に大急ぎだ。おや、追伸がある。(読む)「私がなにものかはもうおわかりのはず。この愛を受け入れてくれるなら、ほほえみに示してください。ほほえみこそがあなたにふさわしいのですから。誰の前でもほほえみを。どうぞお忘れなく。かしこ。」かしこ、かしこまりました! ようし、ほほえむぞ。ほほえみまくるぞ! お嬢様がのぞむことなら、なんだってやってやる!
マルヴォーリオ退場。
原作の「十二夜」第三幕 第三場
セバスチャンとアントーニオ登場。
セバスチャン ありがとう、アントーニオ。今のおれには礼を言うことしかできない。
アントーニオ 気にしないでください。おそばにいられるだけで、私はうれしいのですから。それでは、今夜の宿を決めましょう。
セバスチャン まだ日は高い。せっかくの新宿二丁目だ。少し歩いてみないか? 名所旧跡をたずねてみよう。
アントーニオ 申し訳ないのですが、どうぞお一人で。ここだけの話ですが、私はこの国ではおたずね者なのです。
セバスチャン 何をしたのだ?
アントーニオ もう何年も前のことですが、この国を治めるオーシーノと一人の小姓をめぐって争ったことがあるのです。
セバスチャン 小姓?
アントーニオ はい。オーシーノが手元に置いていた少年です。私は、どうしてもその子がほしくなり、いや、その子が私に惚れたとでもいいましょうか。ともかく、手に手を取ってこの国を出ました。オーシーノの艦隊が私の船を追ってきましたが、なんとか逃げ切ることができたのです。
セバスチャン その少年は今どうしているのだ?
アントーニオ 海の彼方、虎ノ門ヒルズで青年実業家に囲われています。こんなことなら、すぐに返せばよかった。
セバスチャン ならば出歩くのはやめにしよう。
アントーニオ セバスチャン様は、どうぞお出かけになってください。この町のはずれにアイランド亭といういい宿屋があります。私は先にチェックインしてお待ちしていますから。ダブルやツインではなく、シングルを二部屋とっておきますので、ご心配なく。
セバスチャン いいのか?
アントーニオ もちろんです。では、この財布を。
セバスチャン それにはおよばない。
アントーニオ どうぞお持ちください。美しい新宿二丁目、仲通りの店をのぞいたら、何か欲しくなるかもしれません。妹さんの無事を祈りに太宗寺にお参りをしたら、お賽銭がいるでしょう。
セバスチャン アントーニオ、すまない。それでは、この財布を預かることにしよう、しばらくの間。
アントーニオ では、のちほど。アイランド亭ですよ。
セバスチャン わかった。
二人退場
原作の「十二夜」第五幕第一場
オリヴィア そういうことなら我慢なさい、マルヴォーリオ。笑って許してやることも大事よ。マルヴォーリオ このうらみ、必ずはらしてやるからな。おぼえているがいい。
オリヴィア それから、マルヴォーリオ。もうその格好はやめていいのよ。
間
マルヴォーリオ (静かに)お嬢様はおっしゃいました。ノンケ男が冗談や悪ふざけでする女装がおきらいだと。では、女装のお嬢様に想いを寄せていた私は、ノンケ男なのでしょうか?
オリヴィア まあ、マルヴォーリオ……
マルヴォーリオ ともあれ、この格好は笑われるためのもの。どうせ女装するなら、笑わせるために、いや、自分らしく生きるためのものでなくてはと思いますが、いかがでしょう。
オリヴィア あなたのいうとおりよ。
マルヴォーリオ ご結婚おめでとうございます。式に参列するのはご遠慮もうしあげます。では、ごきげんよう。
客席へマルヴォーリオ退場。
女神、登場。
女神 支度ができました。さあ、美しい花嫁姿をごらんください。私がこの人の母親ならこんなに嬉しいことはないでしょう。
ヴァイオラ登場、美しいドレス姿。
オーシーノ ここに来い、シザーリオ。いや、シザーリオではなかったな。
セバスチャン 美しく心優しい私の妹、ヴァイオラだ。
オリヴィア シザーリオは今どこに?
オーシーノ どこに行ってしまったのだ?
ヴァイオラ シザーリオは、海の底で恋の歌を歌いつづけています。これからもずっと。
二組のカップルと見守る人々。
キューリオ (アントーニオに)お互い振られたってわけだ。
アントーニオ そういうことだな。
キューリオ 振られた者どうし、飲みにでも行く?
アントーニオ 結婚式はいいの?
キューリオ いいよ、いいよ。どう?
アントーニオ じゃあ、飲みに行こう!
女神 さあ、結婚式が始まりますよ。これまでの行き違いすれ違いの数々、みんなで笑って話しましょう。運命をのりこえる力を見つけたみなさんの、怖ろしい嵐の後でたどりついた幸せが、いつまでもつづきますように。
全員が登場。
礼。
幕
「贋作・冬物語」
原作の「冬物語」第三幕第三場 *酒屋(原作の羊飼い)、拓也(原作の道化)
赤子を抱いたアンティゴナスが登場。
そこは新宿2丁目の浜辺。
アーキデーマスが通りかかる。歌舞伎町にいたときとは別の衣裳。アンティゴナス ああ、そこの御婦人。
アーキデーマス 何かご用?
アンティゴナス 一つお教え願いたい。大嵐に見舞われ、やっとの思いでこの浜辺にたどりついたのだが、ここはいったいどこだね?
アーキデーマス あら、それは大変だったわね。ここは新宿2丁目。2丁目のはずれの浜辺よ。
アンティゴナス そうであったか。
アーキデーマス ほんとにひどい嵐だったわね。何か悪いことが起きた時みたい。あんた、見かけない顔だけれど、新宿2丁目は初めてなのね。気をつけなさい。このあたりは猛獣が出るんで有名なところよ。
アンティゴナス 猛獣?
アーキデーマス ええ、熊に食われたりするから。
アンティゴナス それはメタファーですか?
アーキデーマス どう受け取ってもらってもいいわ。それじゃね。
アーキデーマス、退場。
アンティゴナス ああ、お気の毒な王子様。昨夜、ハーマイオニ様の夢を見た。奥様は言われた。「この子を新宿2丁目に捨てなさい。そして、パーディタと名付けるのです。主人の命とは言え、このようなむごい仕事をするからには、今後二度と奥様のポーリーナに会うことはできませんよ」。奥様はきっと、もうお亡くなりになったのだろう。お気の毒なことだ。さて、王子様をどうしたらよいだろう。パーディタというのは女の名前ではないか? だが、奥様のお言葉を無にするわけにはいくまい。王子様を包んだ奥様のマント、そして宝石や黄金と一緒にその旨を記した手紙を入れておいたのだが……。ますます雲行きがあやしくなってきた。なんだ、あの叫び声は! 神よ、どうか船に無事に戻れますよう。ああ、熊だ、熊が出た! ああ、たすけてくれ! おれはもうおしまいだ!
アンティゴナス、熊に追われて退場。赤子は置き去り。
酒屋が登場。
酒屋 人間なんて、十六から二十三までの年がなきゃあいいんだ。この頃の若いもんときたら、することといったら、盗みを働いたり、喧嘩したり、色恋ですったもんだしたり。この新宿2丁目もよそと少しも変わらない。飲み終えた酒瓶やペットボトルを浜辺に捨てやがる。うちの店の自販機の脇には大きなゴミ箱があるのに、なんでそこに捨てないんだ。あいつらの目は節穴か。亀やクジラが死んだらどうするんだ、まったく。(赤子に気づいて)おや、なんだこりゃ。赤ん坊じゃないか。可愛い赤ん坊だ。男の子か女の子か……男の子だ。かわいそうにこんなところに捨てられるなんて、拾ってやるか、どうしようか? せがれが来るまで待とう。
酒屋の息子、拓也が登場。手にゴミの入った袋を持っている。
拓也 父ちゃん、何してんだ?
酒屋 おお、拓也。そんな近くにいたのか。
拓也 おれ、今、すごいもの見たんだ。
酒屋 なんだ?
拓也 じいさんが熊に襲われてんだ。
酒屋 ……熊系のガチムチヒゲマッチョに?
拓也 うん、熊系に。
酒屋 そんなのめずらしくもないだろう。ここは新宿2丁目だぞ。
拓也 違うよ、ほんとの熊なんだって。
酒屋 熊系がじいさんを食ってたのか?
拓也 そうそう。
酒屋 だから、それのどこがめずらしいんだ?
拓也 じいさんは叫んでた。「死ぬ、死ぬ、おれの名はアンティゴナス、死ぬ、死ぬ」って。そんで死んじまった。
酒屋 まあ、イッちまったってことだな。老いてなおご盛んってわけだ。それより、これを見ろ。お前は死にかけてるもんに出会ったが、おれは生まれたばかりのもんに出会ったぞ。どうだ立派な産着だろう。えらい人の子どもに違いない。この包みはなんだ?
拓也 (包みを開けて)すっげえ! 金だ。みんな、金だ!
酒屋 ありがたいこった。おれはついてるなあ。ゴミ拾いなんかどうでもいい。すぐに帰るとしよう。
拓也 おれはあのじいさんが、どこまで食われたかちょっと見てくるよ。
酒屋 もう全部食われて骨もなくなってるだろう。いいか、せがれ、大きな声じゃ言えないが、2丁目ってのはそういうところだ。よーく覚えておけ。
拓也 うん。
二人、赤子を抱いて、退場。
原作の「冬物語」第四幕第二場
場面は変わって、新宿二丁目。十六年後。
新宿二丁目の王、ポリクシニーズの邸宅。
ポリクシニーズとカミロが登場。ポリクシニーズ お願いだ、カミロ、お前の頼みを断るのはつらい。だが、承諾するのはさらにつらいのだ。
カミロ ポリクシニーズ様。私が国を出ましてから十六年になります。長い間、この新宿2丁目で暮らしてきましたが、骨は故郷に埋めたいと思うのです。レオンティーズ様も過去を悔やまれて、私に帰って来るようにとおおせです。
ポリクシニーズ おれを愛してくれるなら、おれの元を去るのは考え直してほしい。おれは気がかりだ、おれがお前にプロポーズしたことが、お前を苦しめているのではないか?
カミロ いいえ、そうではありません。お気持ちに添えない旨をお伝えした後も、変わらずにいてくださること、あらためてポリクシニーズ様のお心の広さに感じ入りました。
ポリクシニーズ 死んだおれの相方は、お前の良き友であった。後々のことはすべてお前に任せる、そう言っていたではないか。お前はあいつの言葉を無にするのか?
カミロ ですが、ポリクシニーズさま……
ポリクシニーズ おれのことはポリくんと呼んでいいのだぞ。
カミロ おそれおおい。何より、私はこれまでノンケとして過ごしてまいりました。この新宿2丁目で過ごした十六年、愛は様々、恋はいろいろと、見聞きし、知った私ですが、ポリクシニーズ様を愛することができるのかどうかは、まだわからないのです。
ポリクシニーズ 自分のことをノンケと呼ぶノンケはいない。
カミロ ポリクシニーズ様……
ポリクシニーズ まあ、よい。無理を通すつもりはない。だが、おれはお前に生涯そばにいてもらいたいと思っているのだ。それは忘れないでくれ。
原作の「冬物語」第四幕第三場 *オートリラン(原作のオートリカス)、拓也(原作の道化)
二丁目の路上。オートリランがやってくる。しがない女装。
オートリラン (客席に気付いて)あらやだ、こんばんは。はじめまして、私はオートリラン。もちろん、芸名よ。しがない女装。見ればわかるわね。これでも、以前は王子フロリゼルさまにお仕えしてたの。でも、いろいろあって、今はフリー。いろいろってのは、まあ、小さな悪事の積み重ね。まあ、ちょっとした。今は小さな小さな商いをして、細々と暮らしてるってわけ。生きてかなきゃ。そのためなら、なんだってやるわ。未来なんて知らない、今よ、今でしょ! ねえ?(拓也に気付いて)あら、今夜のカモが来たわ。
拓也、登場。酒屋の配達風の姿。
オートリラン ううっ。
オートリラン、苦しそうにうずくまる。
オートリラン ああ、苦しい、生まれてこなければよかった!
拓也 どうしたんだい?
オートリラン お願い、助けて。いいえ、ひと思いに死なせて! ああ、苦しい。
拓也 誰かにやられたのかい?
オートリラン ええ、ひどいやつに。親切なお兄さん、あんたも知ってるでしょ? 私をこんなにしたのは、悪名高いオートリランという女装。
拓也 うん、知ってるよ。そいつは悪党だ。たちの悪い女装だ。街で男をひっかけては、売り飛ばすんだって。ウリ専とかいうところに。
オートリラン まあ、おそろしい。
拓也 出禁になった店が増えすぎて、2丁目にいられなくなったって噂だったのに。
オートリラン しぶといやつなんですよ。でなきゃ、また帰ってきたんですかねえ。とにかく、あいつは私から有り金全部とりあげてどっかに行っちまったんですよ。ああ、どうしよう。
拓也 だいじょうぶかい。少しでよければ貸すよ。
オートリラン ならお願いできるかしら。きっと、きっとお返しするんで。
拓也、金を渡す。
オートリラン ありがとうございます、太っ腹なお兄さん。お言葉に甘えて、一つお願いをきいてもらえるかしら?
拓也 なんだい、おれにできることならなんでもするよ。
オートリラン 実は、私、これからある人と会う約束をしてるんです。でも、こんな具合じゃ行けないんで、かわりに行ってもらえるとたすかるんだけど……
拓也 ああ、いいよ。どうすればいい?
オートリラン 仲通りの少し先、新宿通りの手前に看板なしで赤いランプだけが灯ってる店があります。ドアを開けると、あなたぐらいの年頃のかわいい男の子が五、六人いて、「いらっしゃいませ!」って言うでしょうから、こう言ってもらえます?
拓也 何て言えばいいんだい?
オートリラン 「今日からよろしくお願いします。」
拓也 (繰り返す)「今日からよろしくお願いします。」
オートリラン そう。そうすると、店の奥から少し年上の男の人が出てきて、あなたを座らせてくれるから、そこにしばらくいてほしいの。
拓也 いればいいんだね。
オートリラン ええ。あ、もしかしたら、退屈してきたころに「出かけないか?」って言われるかもしれない。
拓也 誰に?
オートリラン 誰かに。
拓也 そしたら?
オートリラン そしたら、悪いんだけど、その人と一緒に出かけてほしいの。
拓也 ほんとうはあんたが行くはずなんだよね。おれなんかでいいのかな?
オートリラン だいじょぶ、だいじょぶ。話は全部ついてるから。お願いできるかしら?
拓也 わかった、やってみるよ。
オートリラン (独りごちて)よし!
拓也 もう具合はいいのかい?
オートリラン (苦しむ)ううっ。また痛みがぶり返してきた。
拓也 無理しないで、今日はそのまま帰るといいよ。
オートリラン ありがとう。親切なお兄さん。ほんとうにありがとう。
オートリラン、涙ぐむ。
拓也 泣くなよ! じゃあね。
拓也、退場する。
オートリラン (さっぱりと顔を上げて)よし、これで今日のノルマは達成と。博多天神でラーメンでも食ってくかな。ああ、いい夜だ。いっぱいやってくか。
オートリラン、鼻歌まじりに退場。
原作の「冬物語」第四幕第四場
パーディタ でも、大丈夫なのですか? 王子様が身分を隠して、私のようないやしい娘と一緒にいるなんて。
フロリゼル 何をいうんだパーディタ。僕は、あの日、君のお父さんが経営しているこのクラブでけだるくカウンターにもたれていた君に出会ったことを、神に感謝しているんだ。
パーディタ 私も、あの夏の日、あなたが父の店に宅配便の大きな荷物を汗だくになって持ってきてくれたことを忘れはしません。
フロリゼル 君は僕によく冷えたレッドブルを手渡してくれたね。美しい頬を恥じらいで赤く染めながら。僕も忘れられない、僕たち二人の記念日だ。
パーディタ でもフロリゼル、私には身分のちがいがこわくてなりません。私は今でも、あなたのお父様、ポリクシニーズさまがふいにここに現れるのではないかと心配です。
フロリゼル 僕は2丁目の王子という身分が不自由でならないんだ。父は僕に亡くなったもう一人の父のようになってほしいとそればかりを言う。身分を隠して父に内緒で宅配便のバイトを始めたのも、父から逃れたい一心なのだ。
パーディタ ですが、お父様は、跡継ぎのあなたがこんなガテン系な姿をされているのをごらんになったら、どんな顔をなさるでしょう。
フロリゼル いいかい、パーディタ、何も気にすることはない。自由に思いのままに生きるんだ。僕たちは若い。ただ、楽しいことだけに心を向けて、今を楽しもう。神々でさえ、恋に落ちたときは、けものに姿を変えたというではないか。雄牛や白鳥や大鷲に。僕がクロネコになったって、かまわないだろう。
パーディタ まあ、すてき。でも、それは佐川のコスプレだけれど。
フロリゼル 細かいことは気にしない。
<中略>
アーキデーマス モプサ、どうしたの? 浮かない顔ね?
モプサ 私の大好きな拓也がまだ来ないのよ。
パーディタ まあ、お兄様が? 今日は配達は終わりよね?
酒屋 ああ、そのはずだが。
拓也が駆け込んでくる。
拓也 ごめん、おそくなった。
モプサ もうどこ行ってたのよ!
拓也 人助けをしてたんだ。
モプサ あら、なんだかいい匂い? まさか女?
拓也 違うよ。男。男の人と一緒にお風呂に入ったんだ。
モプサ それが人助けなの?
拓也 うん。お金ももらったよ。
モプサ 意味がわからない。
<中略>
ポリクシニーズ、変装を捨てる。
フロリゼル 父上!
パーディタ ポリクシニーズさま。
酒屋 なんということだ。佐川さんはポリクシニーズさまのご子息フロリゼルさま。
ポリクシニーズ お前はもう私の息子ではない。将来、新宿2丁目の王になろうというものが酒屋の娘。しかも女装と結婚するとは。おれの怒りはおさまらないが、死刑だけは勘弁してやる。酒屋の娘、いや、女装、お前も宅配便の男に嫁ぐのがふさわしい。もう王子ではないのだからな。いいか、二人とも、二度と私の目の前に現れるな。
ポリクシニーズ、出て行こうとする。
アーキデーマス あらあら、それが新宿2丁目の王のすることかしら?
ポリクシニーズ なんだと?
アーキデーマス 古いタイプの頑固な女装からひと言言わせてもらうわ。ポリクシニーズ、私たちは、そうやって私たちを認めない連中と闘ってきたのではなかった? あなたはすっかり変わってしまったのね。
ポリクシニーズ ……。
アーキデーマス だとしたら、残念。若い頃のあなたは大きな夢を実現しようとして、いつも輝いていた。星のように燃えさかっていた。あの頃のあなたはもういない。
ポリクシニーズ アーキデーマス……
アーキデーマス さあ、お行きなさい。良い方のあなたは、亡くなった彼が持って行ってしまったのね。そう思うことにするわ。ごきげんよう。
ポリクシニーズ フロリゼル、おれはお前に失望したのだ。なぜ父に正面から戦いを挑み、勝とうとしない? 話し合おうとしない? それが残念だ。
ポリクシニーズ、退場。
原作の「冬物語」第五幕第三場
ハーマイオニ、パーディタ、レオンティーズ抱き合う。
ポーリーナ 愛を得られた皆様は、それぞれのよろこびを分かち合ってください。私は帰るあてのない夫を命が果てるまで悼むことにします。
レオンティーズ 嘆くのはよせ、ポーリーナ。お前もふたたび夫を得るがよい。カミロと結婚するのだ。これは王としての頼みだ。どうかな?
ポーリーナ それは……
カミロ レオンティーズさま、申し訳ありません。そして、ポーリーナ様も。
ポーリーナ どうぞお気遣いなく。
カミロ 私には結婚を約束した相手がおります。
レオンティーズ なんだと、誰だ?
ポーリーナ 誰?
カミロ ポリクシニーズ様です。
一同、大いに驚く。
カミロ (ポリクシニーズに)お返事をお待ちいただいていたプロポーズ、謹んでお受けいたします。
ポリクシニーズ カミロ!
カミロ ポリくん!
レオンティーズ いいだろう。ポリクシニーズ、おれはもう嫉妬はしない。心からの祝福を送るぞ。我が息子フロリゼル。我が娘パーディタ。顔を上げて、お前達の五人目の父親に挨拶するがいい。
フロリゼル (カミロに)父上!
パーディタ (カミロに)お父様!
間
フロリゼル (ポリクシニーズに)父上、私はもう逃げません。わが町新宿2丁目を、わが妻パーディタとともに治めていきます。父上になんと言われようとも。私たちは二人で一人なのですから。
ポリクシニーズ よく言ってくれた、わが息子よ。私はその言葉を待っていたのだ。安心して我らが国の未来をその手に委ねよう。
フロリゼル ありがとうございます。
ポリクシニーズ (パーディタに)わが娘よ、年老いた王の心の狭さをどうか許してほしい。時は流れ、世のことわりも人の心も移りゆく。すべてが変わってゆくなか、決して変わらぬものがあることを、あなたは思い出させてくれた。
パーディタ お父様……
ポリクシニーズ 息子をよろしく頼みます。よくご存じだろうが、まだまだ一人では心許ない。
パーディタ はい、どうぞお任せ下さい!
フロリゼル パーディタ……
レオンティーズ さあ、ハーマイオニ、これがお前の娘婿になる2丁目の王子だ。天のお導きにより、私たちの王子、もとい姫と婚約を交わしたのだ。
ハーマイオニ さすが私の子、見事な女装。
パーディタ ありがとうございます、お母様。
レオンティーズ さすが私の子とは、どういうことだ?
フロリゼル まさか、ハーマイオニ様も女装?
一同 え、女装?
ハーマイオニ ええ、女装。さあ、行って話しましょう。離ればなれになって以来、私たちがそれぞれどのような役を演じてきたか。ポーリーナ、案内しておくれ。
ポーリーナ かしこまりました。さあ、どうぞ。
時が登場。
時 われら役者は影法師、芝居はこの世を映す鏡と申します。この鏡がみなさまのお気に召しましたなら恐悦至極。お気に召さずばただ夢を見たと思ってお許しください。ごらん頂きました物語は、すべてみなさまの想像力によるもの。みなさまのおかげをもちまして、長い旅を終えることが出来ました。それでは皆さま、お別れに、私、時が、この夢の終わりと、新たな夢の始まりをお知らせします。ごきげんよう。
一同、礼。
幕
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